グローバル化からブロック化へ 世界のものづくりの大きな転換点:池田直渡「週刊モータージャーナル」(1/3 ページ)
国際分業が成立する仕組みは、世界が平和であってこそ。そこに最初に激震を与えたのは、新型コロナの蔓延で、人流と物流が止まって、国際分業に大ブレーキが掛かったことだ。そこに加えて、ウクライナ危機である。
過去30年間、自動車産業は世界でも最も進化した国際分業によって、大きく発展してきた。いわゆるグローバルエコノミー化である。
高い技術は不要だが、労働集約的で安い人件費が必要な部品と、高度な機材と専門的マネジメントが必要な部材では、最適な生産地が違う。経済発展度が異なる国で生産した部品を、集積してアッセンブリーすることで完成車ができるので、さまざまな発展度の国が近隣に適度に分布していて、地域内で経済が自由化されている、要するに関税などの自由協定があるエリアこそが、最も効率良く自動車を生産できるのだ。
思い起こせば、1989年の「ベルリンの壁崩壊」による「ボーダレス社会」の到来がその基点で、ドイツから見ると、91年のワルシャワ条約機構の解体によって、東ドイツを筆頭に、ポーランド、チェコスロバキア(後にチェコとスロバキアに分離独立)など、教育水準が高くかつ土地と人件費の安い隣国群が忽然(こつぜん)と姿を現し、2004年の第5次EU拡大で、経済圏としての枠組みが完成したことになる。
ユーロによる統一通貨圏であるEU内では、加盟国同士の為替による経済格差の調整ができないので、経済発展度が高いドイツは、ユーロにより経済力を過小評価された。もし、ドイツマルクであったらマルク=ドルレートはもっとマルクに不利なマルク高になったはずだが、加盟各国との平均で薄められるということは、ドイツにとっては常時自国通貨の買いオペが続いているようなもので、貿易にとって異様に有利な状況が維持された。
その分、割を食ったのはギリシャやスペインなどEU加盟国中の経済弱小国たちで、ドイツにとって都合の良いユーロ安政策は、彼らにとってのユーロ高政策で賄われていたことになる。「EUはドイツが全欧州から利益を吸い上げる仕組み」だと批判されたのはそういう一面があったからだ。
関連記事
- 理由は半導体だけではない 自動車メーカー軒並み減産と大恐慌のリスク
7月から9月にかけて、各社とも工場の操業を停止せざるを得ないほどの減産を強いられた。この問題、本当に理由が中々報道されていないように思う。メディアの多くでは「半導体」が減産の原因だとされてきた。実際のところ、半導体そのものも理由の一部ではあるのだが、あくまでも一部でしかない。生産に大ブレーキをかけたのはもっとごく普通の部品である。 - 【自動車メーカー7社決算】ものづくりのターニングポイントがやってきた
内自動車メーカーの第3四半期決算が出揃った。しかし、今年の第3四半期決算は少し趣が違う。どう違うかを解説する前に、まず第2四半期までの状況を振り返っておこう。 - 自動車メーカー8社のカーボンニュートラル戦略
各社のカーボンニュートラル戦略はどうなっているのかについて、俯瞰的に見てみたいと思う。 - レアメタル戦争の背景 EVの行く手に待ち受ける試練(中編)
コバルトの問題が難問過ぎるので、今注目を集めているのが、従来のハイコバルト系リチウムイオン電池に代わる方式だ。最も早く話題になったのがリン酸鉄電池である。ついでナトリウム電池、そしてニッケル水素のバイポーラ型電池。長らく次期エースと目されている全固体電池もある。 - EVの行く手に待ち受ける試練(前編)
電動化を進めようとすると、極めて高いハードルとしてそびえ立つのがバッテリーの調達である。バッテリーの調達に関しては、大きく分けて問題が2つある。ひとつはバッテリー生産のひっ迫、もうひとつはバッテリー原材料となる鉱物、とくにレアメタルの絶対的不足である。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.