グローバル化からブロック化へ 世界のものづくりの大きな転換点:池田直渡「週刊モータージャーナル」(3/3 ページ)
国際分業が成立する仕組みは、世界が平和であってこそ。そこに最初に激震を与えたのは、新型コロナの蔓延で、人流と物流が止まって、国際分業に大ブレーキが掛かったことだ。そこに加えて、ウクライナ危機である。
台湾を争点とする中国の問題
遠い欧州だけの問題とはいっていられない。台湾を争点とする中国の問題も、今後は想定に入れて考慮する必要がある。しかも中国はロシア以上にグローバルエコノミーとのつながりが深く、影響は甚大である。そしてASEANもまた同じように、経済発展差を生かした高度な分業で成立している自動車生産地だ。
平和を失ったグローバルエコノミーは、緻密であるが故に、今崩壊の危機を迎えようとしている。流れとしては、経済は再びブロック化の方向へ進むしかないだろう。自ら効率を落としてでも、生産が継続できるようにしなければ、事業継続ができない。というかもっとはっきりいえば倒産してしまう。
ブロック化すれば、従来のように効率良く安い部品が入手できなくなる。当然車両価格は上がる。そして新興国に産業を興して、経済発展の呼び水にし、最終的には消費者を育成していくという手順も回らなくなる。ほとんど良いことは無い。
かろうじていえるのは、日本のように経済力と技術力が高い水準にあって、かつて人件費高によってドーナツ化現象を起こしていた国にとっては、流出したものづくりを巻き戻すチャンスではあるということだ。褒められた話ではないのだが、政策の失敗で長らく人件費を安く留めおいた効果がそこに効いてくるかもしれない。
いずれにしても、グローバルなものづくりは大きな転換点に差し掛かっており、選択肢を誤ると奈落の底まで落ちる可能性がある。
筆者プロフィール:池田直渡(いけだなおと)
1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(カー・マガジン、オートメンテナンス、オートカー・ジャパン)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミュニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。
以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う他、YouTubeチャンネル「全部クルマのハナシ」を運営。コメント欄やSNSなどで見かけた気に入った質問には、noteで回答も行っている。
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