欧米では「脱マスク」が進んでいるのに、なぜ日本は「マスクビジネス」が大盛況なのか:スピン経済の歩き方(4/6 ページ)
テレビを見ていると、欧米でマスクを着用している人は少ない。いや、ほとんどいないといった感じなのに、なぜ日本では多くの人が着用しているのか。その背景には、マスクビジネスが大きく関係しているようで……。
マスクで生計を立てる人たち
スケールはかなりミニマムになるが、マスクも同じことが言える。コロナによってそれ以前と比べ物にならないほど大きな産業に成長をして、マスクで生計を立てている人も多くいるのだ。
厚労省の「マスク等国内生産・輸入実態把握調査」(令和2年度)によれば、コロナ前の家庭用不織布マスクの国内生産量は、4億384万枚だったが、コロナ後の令和2年には、14億7385万枚と3倍以上に増えた。輸入量も爆発的に増加をして、コロナ前に9億7770万枚だったものが、36億7555万枚と4倍になっている。
ちなみに、この調査は回収率約59%というややアバウトなものなので、実態をどこまで正確に反映しているのか分からないが、爆発的に増えていることだけは間違いない。
では、市場規模はどれくらいになっているかというと、さまざまな調査があるが、コロナ禍によって3500億円規模までバブル的に膨れ上がった後、2500億円程度におさまったものと考えられている。
例えば、『日用品化粧品新聞』(2月7日号)によれば、大手メーカーが試算しているマスク市場規模は21年に2300億〜2500億円で、22年もこれと同じくらい、もしくは最大で25%減にになるのではないかという見方が強いという。これがどれくらいの規模かというと、日本のアニメ制作業界の市場規模(2510億8100万円 2020年、事業者売上高ベース)とほぼ同じである。
そこで想像をしていただきたい。アニメ制作と同じくらいの規模となったこのマスク産業を「コロナも落ち着いてきたし、もういらねえよな」の一言でいきなり「縮小」させるようなことができるだろうか。
できるわけがない。
2500億円の市場の中では、開発、製造、営業、流通など膨大な数の人々が働いていて、既にそれで生計をたてて家族を養っている人も多くいる。いくら感染が収束してきたからといって、自分や家族の生活がかかっているのだから、そう簡単に「マスクもういらないっすよね」と引き下がれるわけがない。死に物狂いで抵抗するだろう。実際、先ほどの日用品化粧品新聞の記事ではある大手メーカーのこんなコメントが掲載されている。
「どこまで昨年の実績を維持していけるかが課題で、そのための施策の打ち出し方が重要」(日用品化粧品新聞 2月7日号)
サラリーマンの皆さんならばよく分かると思うが、基本的に会社は「右肩上がりの成長を目指す」ことを義務付けられている。景気が悪い、社会が悪い、人口が減少しているなんて言い訳は認められない。昨年の実績よりも今年の実績は上回るのが当然であり、来年はさらにそれを増やしていくことが求められる。それはマスク企業も変わらないのだ。
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