「ふらのワイン」の販売不振をどう解決する? 北大博士課程の学生が奮闘:DX教育プログラム(1/4 ページ)
4年連続で赤字になる見通しで、なんとか売り上げを伸ばしていきたい「ふらのワイン」。販売不振に北大の博士課程の学生が奮闘した。彼らはリピーターの購入商品に着目し、ある提案をしたのだが……。
夏はラベンダー畑やひまわり畑が一面に広がり、冬には美しい白銀の世界に様変わりする景色が、訪れる人たちの心をつかむ。また、テレビドラマ「北の国から」の舞台としても有名なのが、北海道のほぼ中央に位置する富良野市である。
数年前、インバウンド需要によって日本が沸いた中、ここ富良野も例外ではなかった。2015年には外国人宿泊客の延べ人数が初めて10万人を超え、19年には15万3840人と過去最高を記録。観光客全体でも188万人以上に達した。
ところが、新型コロナウイルスによって、観光バブルは弾ける。20年の観光客数は前年比44%減の約106万人に。人口わずか2万人の町は翻弄され、来訪者によって支えられていた地元の名産品も打撃を受けた。その一つが「ふらのワイン」である。
ふらのワインは、全国でも珍しい自治体運営のワイナリーによって製造・販売されている。ワイナリーは1972年に当時の市長の肝いりで設立され、今年でちょうど50年を迎える。そんな節目のタイミングにもかかわらず、目下の業績は厳しい。富良野市のワイン事業を管轄するぶどう果樹研究所によると、20年度の収益は約4300万円の赤字となり、販売本数も16万本程度と、この数年間で約10万本も減少した。
「21年も含めて、4年連続で赤字になる見通し。なんとか売り上げを伸ばし、危機を乗り越えていきたいが……」と、ぶどう果樹研究所の川上勝義所長は悔しさを滲ませる。
これまでふらのワインの約6割が、地元エリアで購入されていたことが主な原因である。オンライン販売も行ってはいるものの、認知度はまだまだ低く、大きな売り上げに結び付いていないのが現状だ。
そんな富良野市が抱える課題を解決しようと、あるプロジェクトが立ち上がった。北海道大学と、IT企業の日本オラクルによる「博士課程DX教育プログラム」である。これはデジタルの力によって社会課題や地域課題を解決することを目的に21年度にスタートした授業で、今回、対象自治体として富良野市が選ばれたというわけだ。
北海道大学では、これまで産学連携に力を入れており、20年度には「Ph.Discover(ピーエイチディスカバー)」というプロジェクトがスタートした。従来型の大学院教育の改革によって、専門的なスキルを持った学生の育成と、その先のキャリア創造につなげることが狙いである。
「博士課程を修了した学生のキャリアは、日本全体の課題です。これまで博士人材を支援するための仕組みがありませんでしたが、ようやく国会での議論が進み、10兆円規模の大学ファンドが創設されました。その先駆けとして始まったPh.Discoverは大きな意義があります」と、北海道大学大学院 理学研究院の大津珠子准教授は説明する。
現在連携する企業は30社ほど。日本オラクルはもともと、北大の学生向けにキャリアパスを伝えるワークショップを開いていた縁などから、Ph.Discoverの一環としてDX教育プログラムを実施するに至った。
同プログラムには8人の博士課程の学生が参加し、ワインの販促チームと、ごみのリサイクルチームに分かれた。特徴は、化学や数学などさまざまな専攻の学生が集まっていることである。
「このプログラムは必修授業ではなく、単位も出ません。自らの専門性とは一見関係ない領域を学びたいという学生が手を挙げています」と大津准教授は意義を強調する。
21年8月のキックオフを皮切りに、データ分析ツールのワークショップ、富良野市での現地視察や関係者との意見交換など、複数回にわたる活動を経て、22年3月末にはその成果報告が富良野市役所で行われた。
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