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富士通・時田隆仁社長に聞く「年収3500万円」の運用状況 みずほシステム障害への対応は?非財務指標もKPIに(1/2 ページ)

富士通の時田隆仁社長に、今後の事業展開の方向性を聞いた。

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 IT大手として、取引先のソリューション解決に取り組んできた富士通。

 サステナブル(持続的成長)な世界を実現するため、これまでできていなかった社会課題の解決に向けた新たな事業ブランド「Fujitsu Uvance(フジツウ ユーバンス)」を2021年10月に立ち上げた。

 テクノロジーと人間の融合により、より大きな問題解決を目指そうとしている。時田隆仁社長(正式表記:「隆」は生きるの上に一)に今後の事業展開の方向性を聞いた。


時田隆仁(ときた・たかひと)1962年生まれ。1988年に富士通に入社。2014年に金融システム事業本部長、19年に執行役員常務、19年6月から社長。59歳。東京都出身(撮影:乃木章)

20年に年俸3500万円を可能にする制度を導入

――日本企業の間でDXムードが高まっています。DX関連投資は進んでいるように見えますが、今後の見通しは。

 DXが浸透しきったとはとても思えませんので、まだまだ需要があるのは間違いないと思います。DXの定義にも、パソコンを配ればそれでいいのか、ネットワークの帯域を大きくすることなのか、といったいろいろな違いがあります。

 業務プロセスを変え、ITの力で新しいビジネスを生み出そうというのがDXであるとするならば、その需要はまだまだあると考えるべきです。

――20年10月に国内の企業や公共にITサービスを提供する「富士通Japan(ジャパン)」を設立しました。富士通本体と顧客によって仕分けをしましたが、営業は順調に進んでいるのでしょうか。

 すみ分けた状況で分社化しているので、そこのところは問題ないです。しかし、民需の分け方はリソースがかぶっているところがあり、現場レベルでは課題があります。

 民需は富士通の中で最もカスタマーベースが大きいところなので、大企業から小さい企業、都市圏から地方までをいったんは規模によって分けました。今後お客さまやパートナーの反応を見ながら見直す必要があれば改善していきます。

 地方自治体については、コロナ禍の対応で、この2年間はDXに取り組む余裕がある自治体ばかりではないというのが正直なところではないでしょうか。

――優秀な人材を獲得するため、最高で年俸3500万円で処遇する「高度人材処遇制度」を20年4月に導入しました関連記事を参照)。その運用状況はどうなっていますか。

 この制度は継続していて、常に募集を掛けています。社内でも高度人材の認定をし、グローバルでも「Global Fujitsu Distinguished Engineer」という制度を設けて32人を認定しました。役員には社外人材を登用していますが、3500万円の年俸を払うような外部人材はまだ出ていません。

 今後もグローバルで国籍に関係なく人材獲得を進めていきます。ただ、こうした人材を獲得することにおいて、日本の給与水準が世界水準に合ってないのは、われわれの業界では自明のことで、既に(年功序列的な給与体系は)崩れています。


Global Fujitsu Distinguished Engineerにより、グローバルでビジネス・技術・人材の各戦略を加速(富士通のWebサイトより)

みずほシステム障害への対応は?

――富士通は、みずほフィナンシャルグループの基幹システム「MINORI」の開発を手掛けましたが、稼働後にトラブルが相次ぎました。原因はみずほ側にあり、金融庁が今後も厳しく監視していくようですが、富士通はどう対応しますか。

 MINORIは稼働して2年になりますが、ベンダーごとに契約されています。富士通はシステムエンジニア(SE)の契約をしているので、しっかりと責任を全うしていきます。

 開発にあたり、ベンダーの中でリーダーを決めたということはありません。当時のエピソードを言うと、みずほのリーダーシップで「背番号を外してやろうよ」というのが印象的でした。ベンダー各社は(会社の垣根を取り除いて)お互いのユニフォームを脱いで、同じユニフォームで開発していました。

――岸田内閣では経済安全保障の視点が重視されていますが、富士通としての対応は。

 経済安保担当の大臣を置いて、国を挙げて経済安保に取り組む姿勢を鮮明にしたのは良いことではないでしょうか。守るだけでなく攻めることも必要だと内閣で発言されていることには賛同します。

 米中対立の中で対象になっているネットワークは、事業の一つなので大きな関心を持っており、民間として果たすべき責任もあります。この関係で担当役員も置きましたので、今後、大臣や監督官庁と十分なコミュニケーションを図っていきます。

――サプライチェーンの確保と経済安保との関係では、どのように対応しますか。

 中国のみならずサプライチェーンが複雑化しているので、安全保障の観点を踏まえて、どういうところから供給を受け、提供するかは国同士で話すべきこともあると思います。

 国の方針に沿って日本企業としての富士通の方向性を定めていくべきですが、民間としてやれることは、お客さまや社会の要請に応えてサプライチェーンを確保することしかないと考えています。

――サプライチェーン確保のために、具体的にはどんな対策をしますか。

 半導体など部品の供給が途絶えると困るので、複数のメーカーとの供給ルートにするようにしています。また検査コストは掛かりますが、代替の部品にしないと乗り切れないので、既に切り替えているところもあります。

 22年の後半までは注視すべき状況が続くと思います。

スパコン「富岳」の今後は?

――富士通が理化学研究所と共同で開発し、21年3月に完成したスーパーコンピュータ「富岳」は計算スピードで世界1位をキープしました。さらなる開発を進めるのでしょうか。

 それは理化学研究所が決めることで、富士通が決めることではありません。4期連続で首位になったのはうれしいですが、すぐ後には米国も中国もいるでしょうから、テクノロジーの世界なのでいつまでも1位ということはないでしょう。


スーパーコンピュータ「富岳」は計算スピードで世界1位をキープ(提供:理化学研究所)

――テクノロジーが進歩する中で、近未来でみたときに「ゲームチェンジ」になるような注目される技術は何でしょうか。

 やはり量子コンピュータに代表されるコンピューティングとネットワークの進化に尽きるのではないでしょうか。ソフトウェアはこれからいろんなアイデアがいくつも出てくるでしょう。AIは既に当たり前のことになっていますし、想像もつかないことが起きるかもしれません。

 われわれも、テクノロジーと社会や人間とのコンバージェンス(融合)はこれから取り組むべき重要なテーマだと考えています。人文社会学的な人間そのものの行動や、社会の動きを予測するようなことが求められるようになってきています。

――富士通では具体的にどんなことに取り組みますか?

 当社も既に映像認識AI技術「アクトライザー(Actlyzer)」という商品を出しました。映像を解析することによって、ショッピングや工場での製品選びのエラーを防ぐことが実現しています。このような取り組みが、よりインテリジェンスなこととの融合になっていくのではないでしょうか。


映像認識AI技術「アクトライザー」の工場組み立てシーン

 これまでは「テクノロジー=理系人材が足りない」といわれてきましたが、今後は融合が求められることで、文系人材も活躍すべきだと思います。

 富士通はもともと「ヒューマンセントリック(人間中心)」を掲げてきているので、AIの倫理などにも取り組んでいます。テクノロジーが先行しすぎると危うい部分もあるので、先端技術を使う上での倫理にはより取り組む必要があると思います。AI倫理に取り組んで3年になりますが、あらゆる先端技術は倫理観を求められています。


アクトライザーの小売での購買行動認識

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