富士通・時田隆仁社長に聞く「ジョブ型組織への変革」:不確実な世の中にどう対応するか?(1/2 ページ)
富士通は4月、「ジョブ型人材マネジメント」の考え方に基づく新たな人事制度を、国内グループの一般社員4万5000人向けに導入した。経営的には22年の営業利益を4000億円と強気の数字を掲げている。時田隆仁社長にその意図と、今後の展望を聞いた。
総合エレクトロニクスメーカーの富士通。時田隆仁氏は2019年6月に社長に就任し、「パーパス」「大切にする価値観」「行動規範」の3つで構成する「Fujitsu Way」を掲げた。社会課題の解決に向けたグローバルソリューション「Fujitsu Uvance(フジツウ ユーバンス)」を立ち上げるなど積極的な経営をしている。
時田氏は組織改革にも取り組んできた。4月には、従業員一人ひとりの挑戦と成長を後押しする「ジョブ型人材マネジメント」の考え方に基づく新たな人事制度を、国内グループ(一部を除く)の一般社員4万5000人向けに導入している。20年4月に制度を導入した幹部社員とあわせて、対象を全ての職層に拡大したのだ。
21年の営業利益は、半導体不足によって部材の供給が遅れたことなどにより、売り上げの計上が延伸するなどしたため、前年比で471億円減の2192億円だった。22年の営業利益は同1807億円増の4000億円と強気の数字を掲げている。オミクロン株やウクライナ情勢など世界経済を取り巻く情勢は不確実さを増しており、目標の到達は容易ではない。
時田社長に今後の展望を聞いた。
企業体質を変えないと生き残れない
――就任から約3年が経ちました。今期はどういったところを優先的に取り組み、変えていきたいと考えていますか?
中期計画の最終年度ですから、掲げた目標を達成することに全力を注ぎます。同時に、来年度以降の準備もしっかり行います。ステークホルダーの方の期待や、当社との約束を守るためにも、今年度をしっかりやっていくことが大事だと考えています。
――22年の営業利益率の目標は、前年の6.1%から10.8%に設定しました。
この数字は競合他社と比べても高い数字とは思っていません。当社が比べられる会社は、すでに10%を超えていますから、追いつかなければいけない数字です。
投資家の皆さんからは野心的な数字と言われることもありますが、私自身は「達成できない目標」だとは考えていません。企業体質は変わってきていますし、経営としてやらなければならないことは、この3年間のコロナ禍でも進めてきました。
――企業体質が変わってきたと話されましたが、どういう風にマインドが変わってきたのでしょうか?
一番感謝をしなければならないのは従業員に対してです。人事制度まで変えるなど富士通の中身を変えていく中で、それについてきてくれたことは彼らの理解と努力があってこそです。100%支持された施策でないことは、認識しています。
グループ全体で13万人、日本で8万人の従業員がいる中で、全員が合意することは、そうはないでしょうし、ネガティブな意見があるほうが健全です。
当社には、従業員の声などを聴く「VOICE」というプログラムがあります。意見に目を通し、それにレスポンスするように努力し、少しずつではありますが、改善してきています。5年前、10年前と比べれば従業員の声は拾えていると思っています。
それこそ私が入社した30年以上前は、上からの指示に「イエス・サー」と従う感じでしたが(苦笑)。今は社員から声があがるようになったので体質は変わったと思います。VOICEという従業員とのコミュニケーション作りの基盤構築によって、社員の行動変容が進んでいると感じています。
――時代が変わったということでしょうか?
私が若い時は「24時間働けますか?」というコマーシャルがあった時代です。一方、今のZ世代、α世代が社会に出て、価値観が変わっているわけですから、企業体質も変化していかないと生き残れません。
自律的な組織への変革
――体質の変化とはボトムアップ……、つまり従業員にいろいろと考えてもらうようにしたということでしょうか?
ジョブ型人事制度を導入しましたが、その前提は1人ひとりの自律です。富士通グループ全体のパーパスは定めましたが、従業員各自が富士通の中で成し遂げたいパーパスは社員によって異なっています。それを実現するために、自分はどういう教育を受けたいのかを考えてほしいですし、その社員の要望に応えるため、教育プログラムを全て変えました。昇格するための試験のようなものも、できるだけ廃止しました。
例えば、一括した新人プログラムは廃止して、自分が学びたいことを選択できるプログラムを用意しました。ジョブポスティングについても、日本人が米国の仕事に応募することが可能ですし、その逆もできます。グループ全体で異動が活発になってきました。
――4月にジョブ型の人事制度を全社員に拡大しました。特に海外では転職を前提とした働き方になっていますが、会社として組織を作っていくには、ある程度、社員が定着した方が、よりビジネスを進めやすいのも事実です。その辺のバランスはどう考えていますか?
ダイバーシティ&インクルージョンが上がれば意思統一は難しくなりますので、共通の仕組みと言語が必要となります。世界各国の富士通で、業務プロセスもそれぞれ異なっていましたが、この4月からの(営業活動における一連の業務フローをパイプに見立て、分析や改善をする)パイプラインマネジメントは、グローバルで1つのシステムによって稼働を始めています。
具体的には英国とアイルランドでERP(Enterprise Resources Planning、基幹系システム)を先行して導入しています。
言語では、パーパスについて約15カ国語で文脈も崩れないように翻訳をして、社員への浸透を図っています。新しい組織では本部長を含めた幹部をジョブポスティングで選び、昔のように全員日本人というチームはないですし、会議も英語です。言語バリアがなくなったとは言いませんが、徐々に当たり前になってきています。
――ジョブ型については、時代の流れなどから今、導入するべき時期だと判断したのですか?
「日本と海外を分けることをしない」ということです。新型コロナで海外の人たちとFace to Faceで取り組むことはできませんでした。ここ数カ月は海外に行けるようになり、英国やオーストラリアにも足を運びました。実際に訪れると「日本と海外を分けるのはおかしい」という声が上がります。
富士通は国内8万人ではなくグローバル13万人の会社であって、その組織能力を使い切ってお客さまにサービスを提供することが大事です。ジョブ型とはそれを実行するための制度と言えます。
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