「プラスチック新法」に対応したらアメニティーが“ごっそり”盗まれた? 対応に右往左往する現場のリアル:瀧澤信秋「ホテルの深層」(4/5 ページ)
4月1日に施行された通称“プラスチック新法”。「ホテルの客室からアメニティーが無くなる!?」といったうわさがまことしやかに広がったが、実際はどうなのだろうか。ほぼ毎日ホテルに宿泊する筆者が現場を調査したところ……。
アメニティーバーはプラスチック使用量削減になるのか?
高級ホテルとアメニティーバーは親和性が低いものの、ビジネスホテルで多く見かけるようになったアメニティーバーの導入は、コスト削減に功を奏してきたのだろうか? とあるビジネスホテルの担当者に聞くと「アメニティーバーを導入しても、アメニティーそのものにかかるコストはさほど変わらない」と話す。
プラスチック削減の実質的な効果はさておき、ロビーに置こうが客室に置こうが使う人は使うし使わない人は使わないということか。別のビジネスホテルのスタッフに聞くと、明らかに差が出るのが「客室清掃の人件費」という。実際に取材してみると、まず清掃スタッフが用いるアメニティーバックへセットする必要がなく、もちろん客室へセットすることもない。
スタッフ一人当たりの担当清掃時間は1日4〜5時間というが、アメニティーバーの設置により、15〜30分の短縮効果が出たという(スタッフの作業時間が短縮されるというよりは、作業できる客室が増えるということになる)。当然、清掃スタッフに指導、教育する時間も短縮されるだろう。
ところで、ゲストの評価はどうなのだろうか。アメニティーは客室にあることが常識になっている。入浴なりシャワーなり、バスルームで服を脱いで、あると思ったアメニティーがないと気付いてしまっては遅いという声があるのも現実だ。ロビーの目立つところにアメニティーバーが設置したり、フロントでしっかりと案内をしたりすれば防げるかもしれないが、そういうケースばかりではないということか。
確かにもう一度服を着て取りに行くのはかなり面倒である。結局、客室からアメニティーを撤去することは、ホテルサービスの低下と捉えるゲストがいて、事実、アメニティーバーを導入するビジネスホテルにとっては憂慮すべき問題との声があった。
「声があった」と過去形にしたのも、今回のプラスチック新法が、アメニティーのコストカット=サービス低下という図式に、“環境問題という大義名分が与えられた”と捉えることもできるからだ。
すなわち、アメニティーを客室から撤去したりアメニティーバーにしたりするのは、(本当はコストカットだけれど)新法に対応して環境問題に積極的に取り組むホテルという位置付けにできるリアルな姿といえる。そんな話をとあるビジネスホテル運営会社社長に話したところ、大義名分というと聞こえは悪いが、「背中を押してくれた」と思っていると答えてくれた。
関連記事
- ホテル1室のアメニティー、清掃費用は一体いくら? ホテルの気になる“原価”あれこれ
コロナ禍で価格が下がっているホテル利用料金。そもそも原価はどのくらいなのだろうか。運営会社に取材を試みた。 - バブルの名残 温泉街の「大型施設」が廃墟化 鬼怒川と草津の違いと「大江戸温泉物語」の戦略
コロナ禍がもたらす温泉街への影響は甚大だが、「温泉の魅力」として考えさせられるのが“街づくり”という点だ。筆者は「施設そのもので集客できる強い宿は例外的で、温泉地の魅力自体が集客を左右する」と指摘する。 - ドーミーインのこだわりは「大浴場」だけじゃない 店舗数拡大でも維持する「水風呂」と「朝食」の質
共立メンテナンスが運営するビジネスホテル「ドーミーイン」。大浴場のこだわりにとどまらず独自サービスを展開している。 - 実は3種類ある「プリンスホテル」 売り上げ1位なのに、実態がよく知られていないワケ
規模や知名度などから、日本においてホテルの代名詞的な存在とされてきた「プリンスホテル」。2007年からは“新生プリンスホテル”として、ブランド戦略を進めている。 - 食品ロスを減らそうとしたら宿泊客から「料理がないぞ!」 朝食ブッフェの“深刻”なジレンマ
コロナ禍で変化したホテルの朝食ブッフェ。筆者がリピートしているビジネスホテルでもある変化があった。その理由とは……。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.