法改正でもまだまだ道半ば? 男性育休促進を阻む「エセ女性活躍推進」の正体:アンコンシャス・バイアスにご用心(4/4 ページ)
男性も育休を取得すべき――これまでは女性が取得するものど思われがちだった中、社会の変化や法改正もあり、徐々に高まる男性育休の機運。一方で、まだまだ道半ばともいえそうだ。その背景に「エセ女性活躍推進」があると筆者は指摘する。
男女問わず育休を取得できる時代へと移行させるには、育休は女性が取得するものというアンコンシャス・バイアスの呪縛を解き、これまで女性を前提に職場内で構築されてきた育休取得システムをひっくり返す必要があります。
社会全体のアンコンシャス・バイアスを取り払うには、男性育休取得者の数を増やすことが一番です。育休を取得する男性の存在が珍しくなくなれば、男性と女性が同時に取得したり、男性のみが取得したりする家庭があったとしても、周りから後ろ指をさされる心配はなくなります。
しかしそれは、鶏が先か卵が先かという話でもあります。そのお見合い状態のバランスを崩すために、育児・介護休業法の改正を行って強制力を働かせ、男性育休取得の事例を増やしていくことには一定の意義があるといえます。ですが、会社の組織構造が今のままでは、育休を取得する男性にとっても、男性の育休取得を認める会社側にとってもストレスがかかってしまいます。
男性としては、法律が改正されたとはいえ、会社側の体制や職場内の認識、雰囲気などが整っていない中で育休を取得するのはどうしてもリスクが伴います。権利だからと育休を取得したものの、意識改革が未熟な社内では裏切り者扱いされてしまい、育休から復帰してもパピートラックに乗せられてその後のキャリアをふいにしてしまうかもしれません。
しかし、思い切って取得すれば、その姿に勇気付けられた他の男性たちが後に続きやすくなります。三菱UFJリサーチ&コンサルティングが行った「平成30年度 仕事と育児等の両立に関する実態把握のための調査研究事業報告書」の報告によると、育児休業の「制度を利用しなかったが、利用したかった」または「制度を利用したかった」と答えた「男性・正社員」の割合は、37.5%に及びます。それだけの男性が、育休を取得したいという秘めた願望を抱えています。その人たちが後に続き、男性育休取得者が増えていけば、社内の雰囲気や男性育休取得者への評価も変わっていくはずです。
会社ができる「3つのポイント」
一方、会社としては女性に偏って育休取得を促進してきた仕組みを見直し、根底から作り変える必要があります。取り組むべきは、女性と男性の育休取得率の差が顕著になっている要因として挙げた、職場環境面の理由をひとつひとつひっくり返していくことです。具体的には、以下の3点です。
(1)性別に関係なく、能力やスキルに応じた職務やポストに就けること
(2)育休復帰後のマミートラックやパピートラックを廃止すること
(3)結婚・出産後、女性だけに配慮するエセ女性活躍推進をやめること
女性のみの育休取得を促進する時代は終わりを迎えました。女性も男性も、働くことや家庭に対する意識が変わってきています。上記(1)〜(3)の取り組みは、これからの時代において働き手に選ばれる会社の必須条件の一つといっても過言ではありません。男性の育休取得促進は、男性社員が育休取得できる仕組みを整えて終わりなのではなく、会社全体の組織構造を未来型へと進化させていくための通過点でもあるのです。
著者プロフィール・川上敬太郎(かわかみけいたろう)
ワークスタイル研究家。1973年三重県津市出身。愛知大学文学部卒業後、大手人材サービス企業の事業責任者を経て転職。業界専門誌『月刊人材ビジネス』営業推進部部長 兼 編集委員、広報・マーケティング・経営企画・人事部門等の役員・管理職、調査機関『しゅふJOB総合研究所』所長、厚生労働省委託事業検討会委員等を務める。雇用労働分野に20年以上携わり、仕事と家庭の両立を希望する“働く主婦・主夫層”の声のべ4万人以上を調査したレポートは200本を超える。NHK「あさイチ」他メディア出演多数。
現在は、『人材サービスの公益的発展を考える会』主宰、『ヒトラボ』編集長、しゅふJOB総研 研究顧問、すばる審査評価機構株式会社 非常勤監査役、JCAST会社ウォッチ解説者の他、執筆、講演、広報ブランディングアドバイザリー等の活動に従事。日本労務学会員。男女の双子を含む4児の父で兼業主夫。
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