“誤差”か“氷山の一角”か 女性自殺者増加から透けて見える、日本企業の深刻な「勤務問題」:表向きの多様化で済ませるな(1/4 ページ)
20年、女性自殺者が増加した。前年比の増加率は4.5%と、見方によれば「誤差」ともとれる数値だが、筆者はこの現象を「氷山の一角」として、日本企業の「表向きの多様化」に警鐘を鳴らす。自殺の原因として増える「勤務問題」とは、いったい何なのか。
総務省が発表した労働力調査によると、2021年8月の完全失業率は2.8%。コロナ禍に見舞われた20年以降やや上昇したとはいえ、直近20年の推移を見る限り、低い水準を保てていると思います。
経済活動にさまざまな制約が生じている中、完全失業率を低い水準に留められている理由の一つは、雇用調整助成金による政府施策が奏功していることだと考えます。しかしながら、新型コロナウイルスへの感染リスクなどから、多くの人が求職活動できずにいるため失業者数にカウントされていない、といったネガティブな側面の理由も考えられます。
ポジティブな側面としては、テレワークや時差出勤に柔軟に対応したり、副業や在籍型出向を促進したりするなど、ワークスタイルの選択肢を増やすことで雇用維持が図られていることも、失業率が低く収まっている理由として挙げられると思います。
この点については、コロナ禍前から進められてきた働き方改革の流れに沿ったものだといえます。厚生労働省のWebサイトには、働き方にまつわる課題や働き方改革が目指す姿について以下のように記されています。
“わが国は、「少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少」「育児や介護との両立など、働く方のニーズの多様化」などの状況に直面しています。こうした中、投資やイノベーションによる生産性向上とともに、就業機会の拡大や意欲・能力を存分に発揮できる環境を作ることが重要な課題になっています。”
“「働き方改革」は、この課題の解決のため、働く方の置かれた個々の事情に応じ、多様な働き方を選択できる社会を実現し、働く方一人ひとりがより良い将来の展望を持てるようにすることを目指しています。”
こうした「多様な働き方を選択できる社会」の実現を目指す働き方改革が、期せずして発生したコロナ禍における雇用維持に、一定の効果をもたらしたといえそうです。
増えている女性自殺者
その一方で、気になるニュースが報じられました。9月28日に共同通信が配信した記事「『働く女性』自殺増加、対策白書 コロナ禍、21年版の概要判明 」によると、20年の自殺者数が前年比で912人増えたとのこと。顕著に増えたのは女性で、原因・動機として最も増加したのは「勤務問題」だったそうです。
記事によれば20年の自殺者数は2万1081人。1年のうちにこれだけ多くの方が自ら命を絶たれていると思うととても辛くなりますが、一時は3万人を超える水準だったことを考えると、コロナ禍の中で数字は抑えられているといえます。また、増加した人数は912人なので、厚生労働省の自殺対策白書で公開されているデータによると対前年比で上昇率は4.5%。1997〜98年にかけては35%近くも上昇しており、4.5%という数字はおおむね「横ばい」の範囲と見なされるのかもしれません。
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