権利であるはずの「無期雇用への転換」を、多くの有期雇用労働者が希望しないワケ:調査データから理由を探る(1/4 ページ)
働き手の権利の一つ、「無期転換ルール」。一見すると有期雇用より無期雇用の方が恵まれているようにも思えるが、このルールを希望する人は意外に少ない。なぜなのか?
働き手の権利を強化する法制度は、時を経るとともに少しずつ整ってきていると感じます。例えば、働き手の権利でありながらなかなか行使できないものとされていた有給休暇に関して、働き方改革関連法により、年10日以上の年次有給休暇が付与される働き手に対して、職場が年5日取得させることが義務付けられました。また、先の通常国会では、男性でも産休を取得できる法案が成立したのも記憶に新しいところです。
そんな働き手側が有する権利の充実が進む一方で、2021年7月28日NHKは「非正規雇用の“無期転換ルール” 希望27%余 周知不十分か」と題したニュースを報じました。
「無期転換ルール」とは、パートやアルバイトなど有期雇用で働く人が、同じ企業で契約を更新して通算勤続5年を超えた場合、本人が希望して申し込めば、無期雇用(期間の定めのない雇用)に転換できる制度です。
NHKのニュースによると、この無期転換ルールについて「何も知らない」「聞いたことがない」と答えた人が39.9%で、4割近くに上ったとのことです。そもそもルールを知らなければ、せっかく権利を保持していても、行使できません。
一方で、無期雇用への転換を希望するか否かについては、「分からない」が過半数となっているものの、「希望する」が18.9%であるのに対し「希望しない」が22.6%と上回っています。このデータをそのまま受け取ると、無期転換したいと考えている人の方が少ないことになります。
そもそも、無期転換したからといって、辞められなくなるという制約があるわけではありません。単純に考えるならば、取りあえず無期雇用に転換しておけば、契約終了で仕事を失う不安からは解放されるはずです。そう考えると、働き手のメリットは大きいように思います。
働き手が有利になるように見えるのに、なぜ無期転換を「希望しない」人の方が多いのでしょうか。考察してみたいと思います。
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