日本人は、自らブラックな労働環境を望んでいるといえなくもないワケ:働き方の「今」を知る(1/6 ページ)
長く続くコロナ禍。解雇などのニュースを目にすることも多いが、国際的に見ると日本は比較的低めに推移している。ただ、その代わりに失っているものも少なくないと筆者は指摘する。
新型コロナウイルス感染拡大によって経済活動が停滞した結果、企業の新卒採用にも影響が出ている。共同通信社がまとめた、主要110社を対象とした2022年度入社の新卒採用に関するアンケートによると、「採用数を21年度実績より減らす」と回答した企業は22%に上り、抑制傾向が続いているという。
不況時の採用抑制は、過去にも見られた。「就職氷河期」という言葉が生まれた1992年はバブル崩壊により景気が急速に冷え込んでいた時期であり、採用抑制傾向は2000年前後まで続いている。ちなみに筆者が大学を卒業した1999年の有効求人倍率平均は0.48と当時の戦後最低水準であり、いわゆる上位校学生でも就活に苦労していたことが思い出される。その後の氷河期はリーマンショック後の2009年であり、有効求人倍率は最低水準を更新して0.47となった。
一方で、新卒者採用を抑制することは企業にとってリスク要因となる。リクルートワークス研究所の調査によると、組織に新卒が入ってこない状況が続くと「人材の質的面にマイナスの影響を及ぼす」との結果が出ているのだ。具体的には、「人に教える」という行為を通じて成長する機会が奪われ、いつまでも後輩扱いをされることでモチベーション低下につながるほか、上下間でのコミュニケーションが希薄化し、技術や技能の承継にも支障する等といったネガティブな影響が及ぶとの指摘がなされている。
こうしたリスクが明らかなのであれば、人件費抑制のためにあえて新卒採用にブレーキをかけるのではなく、「組織に貢献できていない、既存の高給社員をクビにすればいいのではないか?」という考えに至ることが自然かもしれない。実際に、こうした企業は少なくない。
コロナ禍で解雇や雇い止めが増える一方、日本はまだマシ?
新型コロナウイルスが原因で解雇や雇い止めされた人の累計は、先日10万人を超えたと発表された。4月9日時点までの累積値として、解雇等見込み労働者数は10万947人、雇用調整の可能性がある事業所は12万6856カ所となっている。2020年8月に5万人を超えてから、わずか半年で倍増した形だ。しかもこの人数は労働局が把握している分のみであり、実際の人数はもっと多いとの指摘もある。
しかし、一見膨大に見えるこの数字も、実は諸外国と比較すればかなり安定している方だということはあまり知られていない。その証拠に、2020年初頭に新型コロナウイルスの存在が社会問題となって以降、2021年2月までの各国における完全失業率推移を見てみよう。
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