日本人は、自らブラックな労働環境を望んでいるといえなくもないワケ:働き方の「今」を知る(2/6 ページ)
長く続くコロナ禍。解雇などのニュースを目にすることも多いが、国際的に見ると日本は比較的低めに推移している。ただ、その代わりに失っているものも少なくないと筆者は指摘する。
欧米諸国が軒並み失業率5%以上、スペインに至っては16%といった数字を記録している一方で、日本はおおむね2%台を維持しており、最も高い時期でも2020年10月の3.1%が最大値であった。
コロナ禍において諸外国では解雇がまん延し、高い失業率を記録しているにもかかわらず、日本は「解雇が増えた」といわれながらも全体的には低失業率を維持している。実際、わが国における1948年以降約70年分の完全失業率推移を見返しても、その間多くの天災や景気変動があったにもかかわらず、2002年に記録した5%台がピークであったのだ。
今般の世界的な感染症まん延という危機時においても、このように雇用が安定しているというのは稀有(けう)な環境であり、労働者にとっても安心できる材料といえよう。しかし、メリットがあればデメリットもある。実は日本の労働者が「雇用の安定」と引き換えに失っているものが存在するのだ。それは「高い賃金」と「良好な労働環境」だ。
映画やマンガでは、ヘマをした部下に対して上司や経営者が「お前はクビだ!」などと宣告する場面をよく見かける。しかし、これができるのはあくまでフィクションの世界や、日本とは法律が異なる海外の話。日本ではそう簡単に、従業員のクビを切ることはできない。現実の世界でこれを本当にやってしまったり、もし冗談だとしても、いわれた従業員が真に受けてしまったりしたら大変なトラブルになるだろう。日本では、労働基準法をはじめとした法律によって、労働者の雇用は手厚く守られているからだ。
とはいえ、法律に詳しい方ならこのように仰るかもしれない。
「民法には『期間の定めのない雇用契約はいつでも解約の申し入れをすることができる』と書いてある。退職も解雇も自由ってことだろう」「労働基準法に『30日前に予告するか、解雇予告手当を払えば、従業員はいつでも解雇できる』という決まりがあるじゃないか!」
「お金を払えば自由に解雇できる」ワケではない
確かに法律上はそうなっているので、「お金を払えば自由に解雇できる」とお考えの方もおられるだろう。しかしわが国には、法律とは別にもう一つのルールが存在する。それは「判例」、すなわち「裁判で解雇が無効だと判断された事例」である。これまで解雇にまつわる裁判が数多行われ、個々のケースについて有効か無効かが判断されてきたという歴史の積み重ねがあり、それらの判例が法理として現行の「労働契約法」による解雇の規定となっている。
労働契約法第16条
解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。
従って、会社が従業員を解雇するには、「客観的に合理的な理由」が必要となるわけだ。しかし実際のところ、解雇が合法的に成立するための要件は極めて厳しく、実質的に解雇が有効になるケースはごくまれであるのが現状なのだ。なぜそのようになったのか、少し歴史を振り返ってみよう。
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