“誤差”か“氷山の一角”か 女性自殺者増加から透けて見える、日本企業の深刻な「勤務問題」:表向きの多様化で済ませるな(2/4 ページ)
20年、女性自殺者が増加した。前年比の増加率は4.5%と、見方によれば「誤差」ともとれる数値だが、筆者はこの現象を「氷山の一角」として、日本企業の「表向きの多様化」に警鐘を鳴らす。自殺の原因として増える「勤務問題」とは、いったい何なのか。
記事では「勤務問題」に起因する増加が最も大きかったと伝えられていますが、自殺者数全体に占める割合はわずかなので、ともすると“誤差”の範囲と受け止められてしまいそうです。しかし、そこに統計の怖さが潜んでいるように感じます。統計は全体傾向を把握する上では適した情報だと思いますが、個々が置かれている状況や少数の人たちの実情まで浮き彫りにすることはできず、むしろ全体の中に埋もれさせてしまう危険性があります。
当然のことながら、自殺者数は一つひとつが命の数であり、亡くなった方の遺族や友人など周囲の方々への影響も含めると、悲しみの数はその何倍にもなります。それらの悲しみを生んだ原因として「勤務問題」が増えているのであれば、それが全体から見れば“誤差”に含まれそうな数でしかなかったとしても、統計だけでは見えてこない問題が潜んでいないか考察しておくことは決して無意味ではないはずです。
コロナ禍で世界中が苦しめられた20年に、日本の勤務環境では何が生じていたのでしょうか。自殺者数が多いのは圧倒的に男性ですが、ここでは増加が顕著だったと指摘される女性の「勤務問題」にフォーカスして考察したいと思います。
女性正規雇用・非正規雇用で顕著な差
女性の雇用周りでは、20年に顕著な変化が見られました。労働力調査から女性の就業者数の推移を「正規の職員・従業員」(以下、正規)および「非正規の職員・従業員」(以下、非正規)とに分けて抽出して並べると、次のグラフになります。
14年以降、正規・非正規いずれも右肩上がり傾向でしたが、19〜20年にかけて非正規の数が減少しています。このデータ上で確認できる02年以降では、リーマンショックの影響とみられる08〜09年にかけて減少して以来の現象です。しかし、減少度合いは今回の方が明らかに大きくなっています。一方、正規の方は19〜20年にかけても上昇しています。
もし、非正規と呼ばれる働き方の女性が仕事を失ったことで自殺者数の増加につながったのであれば、原因として当てはまる項目に「失業」などが思い浮かびます。しかし、その場合に統計上で分類されるのは「経済・生活問題」です。有職者が大半を占める「勤務問題」ではありません。
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