“誤差”か“氷山の一角”か 女性自殺者増加から透けて見える、日本企業の深刻な「勤務問題」:表向きの多様化で済ませるな(3/4 ページ)
20年、女性自殺者が増加した。前年比の増加率は4.5%と、見方によれば「誤差」ともとれる数値だが、筆者はこの現象を「氷山の一角」として、日本企業の「表向きの多様化」に警鐘を鳴らす。自殺の原因として増える「勤務問題」とは、いったい何なのか。
共同通信の記事が取り上げていた20年の自殺対策白書はまだ正式に公表されていないため、元データとなっている警察庁の自殺者数データを参照してみます。女性のうち、原因・動機が「経済・生活問題」に分類された内訳を詳細項目ごとに抽出し、令和2年と令和元年で比較した表が次のものです。
前年比で増加しているものの中で、特に「失業」「就職失敗」「生活苦」については、非正規女性の数が減少したことが直接的に影響していそうな項目です。もし今後、正規でも人数減少に転じるようだと、「失業」「就職失敗」「生活苦」の数字はさらに増加してしまうかもしれません。
次に、「勤務問題」によって自ら命を絶った女性の原因・動機の詳細項目について、令和2年と令和元年で比較したのが以下の表です。
「経済・生活問題」の増加数合計が10人だったのに対し、「勤務問題」は89人。共同通信の記事にあった通り、「経済・生活問題」より「勤務問題」の方が増加幅が大きくなっています。全ての項目で前年を上回っていますが、特に顕著なのが「仕事の失敗」「職場の人間関係」「職場環境の変化」です。
非正規雇用女性が減る裏で何が起こったか
非正規女性の減少による直接的影響がありそうな「経済・生活問題」よりも「勤務問題」の方が増加幅が大きいというのは、一見すると不思議な印象を受けます。しかしながら、非正規女性が減少した背後で、職場に残った働き手にもさまざまな影響が起きている可能性はありえます。特に「仕事の失敗」「職場の人間関係」「職場環境の変化」に影響を及ぼしそうなケースとして、3つ挙げたいと思います。
(1)職務内容の変更
コロナ禍などの影響で職場全体の業務量が減ったり職務担当を見直したりした結果、非正規女性が担当していた業務がなくなり、雇用継続の条件として別の職務への転換を打診した職場もあると思います。
例えば、事務業務を縮小する一方で営業部隊を強化するので、インサイドセールス担当に配置換えすることに同意した働き手だけが雇用継続できたようなケースです。慣れない仕事かつ希望しない職務に転換した人の場合、「仕事の失敗」が生じやすいかもしれません。
(2)業務負荷の増加
非正規女性の数は減ったものの、業務自体がなくなっていなければ、その業務を誰かがカバーすることになります。同一労働同一賃金への対応を進めた関係で正規と非正規の担当業務を明確に分けた職場の場合、統計では正規の女性の数は増えていたものの、退職した非正規女性が担っていた業務が、職場に残った別の非正規女性たちだけに上乗せされて負荷を増やしたケースも考えられます。
結果、(1)と同様に「仕事の失敗」につながりやすくなったり、残業が増えるなどして「職場の人間関係」や「職場環境の変化」にも影響を及ぼしているかもしれません。
関連記事
- 社員に「自己犠牲による忠誠」を強いる時代の終焉 「5%」がもたらす変化とは
企業が社員に「自己犠牲」を強いる時代が終焉を迎えつつある。背景にあるのは、企業と働き手の間にあるパワーバランスの変化だ。筆者は「5%」という数字に目を付け、今後の変化を予想する。 - なぜ? なかなか増えない女性管理職 ファクトで読み解く「歪さ」と「根深さ」
朝日新聞記事で、「女性活躍」を報じるメディア側でも、女性管理職比率が低いことが明らかとなった。2020年までに30%という目標達成が、30年に後ろ倒しされる中、どうすれば女性活躍は進むのか。 - 社員を「子ども」扱い? 野村HD「在宅勤務中も喫煙禁止」の波紋
野村ホールディングスが在宅勤務であっても喫煙禁止とする施策を発表し、波紋を広げた。同社は健康経営の一環として説明するが、果たして効果はあるのだろうか。社員を「子ども」扱いする、安直なマネジメントではないのか。 - テレワークで剥がれた“化けの皮” 日本企業は過大な「ツケ」を払うときが来た
テレワークで表面化した、マネジメント、紙とハンコ、コミュニケーションなどに関するさまざまな課題。しかしそれは、果たしてテレワークだけが悪いのか? 筆者は日本企業がなおざりにしてきた「ツケ」が顕在化しただけだと喝破する。 - なぜ、7割超の日本企業は「五輪・緊急事態」でもテレワークできなかったのか
遅々として進まない日本企業のテレワーク。緊急事態宣言下の五輪期間中でも、その実施率は3割を下回った。なぜ、この期に及んで日本企業のテレワークは進まないのか。 - 権利であるはずの「無期雇用への転換」を、多くの有期雇用労働者が希望しないワケ
働き手の権利の一つ、「無期転換ルール」。一見すると有期雇用より無期雇用の方が恵まれているようにも思えるが、このルールを希望する人は意外に少ない。なぜなのか? - なぜ? なかなか増えない女性管理職 ファクトで読み解く「歪さ」と「根深さ」
朝日新聞記事で、「女性活躍」を報じるメディア側でも、女性管理職比率が低いことが明らかとなった。2020年までに30%という目標達成が、30年に後ろ倒しされる中、どうすれば女性活躍は進むのか。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.