裁判結果が話題 「会社に貢献できない人はクビ」と主張する外資企業のウソ・ホント:裁判から「解雇」の誤解を紐解く(3/5 ページ)
「会社に貢献できない場合に退職を求められるのは、外資系金融機関では常識」「日本の判例で男性の解雇が無効とされれば、国際企業は日本から撤退する」」と主張する会社と退職を迫られた元幹部が争った裁判結果が話題になっている。
まず、多くの人がイメージする「外資系企業におけるクビ」とは、文字通りの「解雇」ではなく、「退職勧奨」のことを指す場合がほとんどだ。イメージとしては、対象社員に「辞めろ」と迫って追い出すのではなく、「会社/あなたの業績が振るわないので、これ以上在籍しても、今後給料は上がらないかもしれない」「でも今辞めると、割増退職金が得られるなどのメリットがあるよ」といった形で交渉して合意を取り付け、本人の意思で「じゃあ辞めます」と自発的にいわせるのである。
会社からの一方的な処分ではなく、本人の合意があって成立するものであるから、違法性はない。解雇の場合は今般の裁判のように「整理解雇の要件」を満たしているか否かを指摘されてしまうが、退職勧奨の場合は「適正に下された人事評価」を基にするので合法なのだ。
従って、もともとしかるべき人事評価制度が設けられていて、「過去3回の評価期間中、ずっとABCDのDランクだった」「複数回の懲戒処分を受けた」といった明確な根拠があり、その結果として「あなたは業績/態度が悪いから、退職勧奨の対象になっているのだ」と告げるのは違法ではない。
実際、これまで退職勧奨について争われた裁判において、退職勧奨の「進め方」(執拗な要求、脅迫的な言動)が問題視されたことはあっても、問題がある従業員に対して「会社が退職勧奨を行うこと」は何ら違法ではない、との判断になっている。
「退職を執拗に迫られた」のに会社の違法性がなかったケース
例えば、日本IBM社が08年に実施したリストラにおいて「退職を執拗に迫られた」として社員が同社を訴えた裁判があったが、東京地裁では「違法性はない」と判断されている。
同社は直近四半期の業績が思わしくなく、リーマンショックによる将来の事業見通しが不透明になったことから退職勧奨を実施。その対象となった4人の社員が「会社が行ったのは退職強要であり、精神的苦痛を被った」として損害賠償を請求した。
裁判では、会社側が行った退職勧奨の適法性が争点となったが、
- 会社側は、所定の退職金に加えて、特別支援金として、月額給与額の最大で15カ月分を支給しており、社員自ら選択した再就職支援会社からの再就職支援サービスを、会社が全額費用負担の上で受けることができる手厚いプログラムを提供していた
- 採用時に業務内容や業務遂行に必要な能力を明示し、業績に応じた待遇と、諸条件なども細かく書面化して説明し、合意形成していた
- 勧奨対象者も、「業績下位15%として特定された社員のうち、IBMグループ外にキャリアを探してほしい社員」を基本として、あらかじめ一定の条件が定められていた
- 会社側は「在籍し続けた場合のデメリット」「退職した場合のメリット」などを丁寧に説明して説得活動を実施した
――といった点が判断材料となり、4人に対する会社の退職勧奨行為はいずれも適法と認定される結果となった。
このように、会社として適正な制度と客観的な評価実績、条件などが整い、対象社員に対して丁寧な説明と説得がなされれば、実質的なクビも「正当な退職勧奨」として扱われることになる。すなわち、日本の労働法制の中においても、合法的にクビにすることは決して不可能ではないのだ。
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