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幹部候補か、“万年ヒラ”か キャリアの分かれ目「30代以降の配置」を、人事はどう決めている?タレントマネジメントの落とし穴(2/2 ページ)

「育成」の観点から異動配置させる20代が過ぎると、多くの企業は「幹部候補の優秀人材」と「それ以外」の社員を選別します。人事は、そうした異動配置をどのように決めているのでしょうか。年代層別の異動配置のロジックをみていきます。

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あまり語られない「30代半ば以降の配置」の実際

 新卒から10年間くらいの若年層の異動配置は比較的方針がはっきりしていて、いくらか「育成」の観点も織り込んで従業員に説明しやすい面がありますが、それ以降はどうでしょうか?

 パーソル総合研究所の異動配置に関する調査(※1)(非管理職層の異動配置に関する実態調査2021)では、10年目以降は明確な方針がないという企業がほとんどですが、年代層別に各社に共通する異動配置傾向があることも分かっています。次の図はそれをまとめたものです。

(※1)非管理職層の異動配置に関する実態調査2021

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 各部門から重宝される若手[A]の次の年代層、30代半ば〜40代前半における企業の最大関心事は優秀人材の選抜です。ここでいう優秀人材とは、とくに管理職や次世代経営人材候補を指しています。

 マネジメント業務は高度化しており、かつてのように優秀なプレーヤーをその延長線上で管理職にすればよいという時代ではなくなっています。また、必ずしも全員が管理職を目指している時代でもありません。各企業とも管理職としての適性、能力、意欲ある人を選抜して登用することの優先順位はこれまで以上に高くなってきており、管理職登用の若年化の動きや育成重視の次世代経営人材プール編成も本格化しています(※2)。

(※2)大手企業のタレントマネジメントに関する実態調査2020/パーソル総合研究所

30代半ば〜40代前半でしっかりとした専門性を

 管理職として選抜されなかった[B]の人たちは、広い意味で専門職的な人ということになりますが、必ずしも専門性が高い人たちということでもなく、単純に管理職以外の人と見たほうが実態に近そうです。[B]は30代前半以前に比べると異動頻度が少なくなり、特に事業部門に人事権がある企業のミドルパフォーマーは同一部門に長期在籍し、特別な個人事情や事業上のニーズがなければ各部門の基幹戦力として同じ業務を担当し続けるパターンが増えます。

 ここで注目すべきは[C]の人たちです。40代半ばになると、新たに管理職として登用される機会は激減します。同時にかつては各部門の基幹戦力として機能していたのに、ズルズルとパフォーマンスが落ちてきて(男性ばかりとは限りませんが)“働かないおじさん”呼ばわりされるケースが散見されるようになります。

人事部門は手抜きできない

 企業の人事責任者へのヒアリング調査(※1)では、管理職でない人たちの中で本格的な専門職として通用するのは2割くらいとの声が多く聞かれました。残り8割は、しっかりとした専門性を持つ専門職というよりは「特定範囲の業務を専ら長く担当してきたベテラン=専任職」と呼ぶ方がぴったりくるとの指摘です。40代半ばになり管理職登用の目がなくなると同時に、初めて自分の専門性の乏しさに築くというのが実際ありがちなパターンです。

 この専任職的人材の配置は、(1)消去法で現在の業務を担当し続ける、もしくは、(2)高度な専門性が要求されない業務に量的バッファ要員として配置されることが多くなります。(2)の場合、各部署の人材需給状況に応じて会社都合で異動を繰り返すことにもなります。

 なぜ専任職的人材になってしまうのか、その大きな原因は30代前半〜40代前半の職務経験にあると考えています。その年代のミドルパフォーマーは各部門の基幹戦力で、各部門からすると「異動させる必要がない人」です。結果として、特定範囲の仕事を長く続けることになり、専門分野というにふさわしい幅と深さが身に付かないということになりがちです。たいていは、相応の深さを得るためには相応の間口の広さが必要です。

 「幅出しの異動」という言葉があります。仕事の幅を広げるために、周辺業務や異職種への異動を行うことをいいます。意図的に幅出しの異動を行う企業は、人事部門の人事権が強い企業です。部門の人事権が強い企業では異動においても短期の生産性を重視するので、幅出しの異動は少なくなります。全体としては、次世代経営人材のような全社横断的な取り組みは人事部門主導で行うものの、ミドルパフォーマーの異動配置は事業ニーズに迅速に対応できるように各事業部門の人事権を強くしていく傾向にあります。事業部門人事権の強化には利点もある反面、業務の固定化によって専任職的人材を作りやすくなるというリスクがあるかもしれません。

従業員は自社の異動配置パターンの把握を

 各事業部門が事業ニーズや短期の生産性を重視して異動配置を行うのは当然のことです。とすると、中長期のキャリア観点を重視した異動配置は、やはり主に人事部門が目配りすべき領域です。また、キャリア自律といっても、企業内でのキャリア形成は従業員だけではできず、人事部門が社内公募やFA制度などの手挙げによる選択肢を用意する必要があります。

 一方、従業員としては、自社の人事異動方針・パターンはどのようなものか、キャリア自律のための社内インフラがどの程度整備されているかに目配りしておくことが欠かせないといえそうです。

著者プロフィール

藤井薫

パーソル総合研究所 上席主任研究員

電機メーカーにて人事・経営企画スタッフ、金融系総合研究所にて人事コンサルティング、タレントマネジメントシステム開発ベンダーにて事業統括を担当。2017年8月パーソル総合研究所に入社し、タレントマネジメント事業本部を経て2020年4月より現職。

株式会社パーソル総合研究所

 パーソル総合研究所は、パーソルグループのシンクタンク・コンサルティングファームとして、調査・研究、組織人事コンサルティング、タレントマネジメントシステム提供、人材開発・教育支援などを行う。経営・人事の課題解決に資するよう、データに基づいた実証的な提言・ソリューションを提供し、人と組織の成長をサポートしている。http://rc.persol-group.co.jp/

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