なぜ高級車はFRレイアウトなのか? その独特の乗り味とは:高根英幸 「クルマのミライ」(5/5 ページ)
マツダがFRの新しいラージ群プラットフォームを採用したSUV、CX-60を発表した。「時代に逆行している」という意見と共に、登場を歓迎するコメントも少なくなく、セダンに対する期待も溢れている。では、今回のポイントの1つであるFRとはいったい何なのだろうか?
FRプラットフォームの可能性とその未来
マツダのラージ群プラットフォームは、洗練された乗用車の走りとスポーティなハンドリングを両立させることが目的らしい。そういった意味では人気のSUVを第1弾としてリリースするのは当然ながら、その後に控えるセダンやクーペなどにも当然期待がもてる。
さらにトヨタも次期ラージプラットフォームはマツダ製をベースとするのではないか、という情報もある。またスバルも、同様にマツダのプラットフォームを利用する可能性もある。
サイズに余裕があるラージプラットフォームであれば、各社独自のパワーユニットを組み合わせるようなことだって実現しやすい。直列6気筒と水平対向エンジンという、対極にあるようなエンジンを、同じプラットフォームで搭載することも可能なのだ。
最後に、FRレイアウトの無駄は余裕、ゆとりを生むだけではないことをお伝えしよう。かつて取材した工場で、こんな話を聞いたことがある。メルセデス・ベンツのSクラスが衝突事故に遭って運ばれてきたそうだ。オーナーは幸い軽傷だったが、ボディの損傷は大きかった。
驚くべきことは、ボディの前面が潰れているだけでなく、エンジンが押し込まれたことで変速機やプロペラシャフトを介して、リアアクスル上にあるデファレンシャルギアがバラバラに破壊されていた。つまりデフが衝撃を吸収して破壊されることにより、衝撃を吸収していたのである。
そこまで損傷が激しければ当然、全損扱いになるのが通常のケースだが、このSクラスのオーナーは「自分の命を守ってくれたクルマだから」と修復を依頼したそうだ。
キャビンを守る用心棒のような役割をすることさえあるFRレイアウト。高級車にとって乗員を守ることは重要な要素だけに、案外こんなところも採用の秘訣であるのかもしれない。
筆者プロフィール:高根英幸
芝浦工業大学機械工学部卒。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。これまで自動車雑誌数誌でメインライターを務め、テスターとして公道やサーキットでの試乗、レース参戦を経験。現在は日経Automotive、モーターファンイラストレーテッド、クラシックミニマガジンなど自動車雑誌のほか、Web媒体ではベストカーWeb、日経X TECH、ITmediaビジネスオンライン、ビジネス+IT、MONOist、Responseなどに寄稿中。近著に「ロードバイクの素材と構造の進化(グランプリ出版刊)、「エコカー技術の最前線」(SBクリエイティブ社刊)、「メカニズム基礎講座パワートレーン編」(日経BP社刊)などがある。企業向けやシニア向けのドライバー研修事業を行う「ショーファーデプト」でチーフインストラクターも務める。
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