「会社も社員もWin-Winな福利厚生」とは? 福利厚生の最新トレンドを知る:連載「情報戦を制す人事」(3/3 ページ)
「従業員が欲しがる福利厚生」と「企業側が実施したがる福利厚生」は、必ずしも一致しません。コロナ禍、テレワークの浸透、賃金の低下傾向、物価上昇──社会状況に伴い、福利厚生のトレンドにも変化が起きています。「企業も従業員も、双方がメリットを享受できる福利厚生」とはどういうものか、探っていきます。
従業員と企業双方にメリットのある制度事例
これまでに触れた通り、従業員が制度へ満足できることでエンゲージメントが高まり、結果として企業の狙いに沿った効果を発揮するでしょう。
効果を最大化するためには、従業員の満足感を得やすいという意味で一般的に人気のある制度を参考にすることも一策です。しかしそれだけでは、絶えず変化する社会情勢や健康経営・人的資本経営等の人事トレンドに順応しきれず、効果を最大化できません。このことを意識した制度設計に向けて、トレンドを考慮した事例をご紹介します。
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(1)健康経営に向けた福利厚生
健康診断へのオプション補助
健康保険組合と連動して通常の健康診断や人間ドックへ付加するオプションの補助を拡充することで、健康経営で肝要な「従業員の健康管理」を支援できます。特に女性の場合はオプションの種類と金額が病院によって多様であるため、補助があることによって選択の幅が広がり、利用促進につながるでしょう。
禁煙補助
「人生100年時代」という単語や定年延長が話題になる中、禁煙はミドルシニア層の健康リスクを低減するために重要視されています。喫煙に関する医療制度が広まったことから、より効果的な医療の場につながるような禁煙外来補助制度を設けるとよいでしょう。
(2)多様な働き方を支援する福利厚生
男性育休の取得促進
22年4月および10月に育児介護休業法の改正が施行され、企業には男性育休の取得促進が義務化されます。このことを受け、男性育休の取得率を上げるための祝い金や特別有給休暇を新設する企業が増えています。
フルフレックス勤務制度
リモートワーク化とともにフルフレックス勤務制度も広がっています。勤務途中に家事育児・登園などを挟みつつ勤務できることから、子どもがいる従業員の採用や定着につながっています。
一方で、既存の両立支援では病児保育やシッター利用は数百円程度の補助を利用しても高額である、介護保険適用外への援助がないなど、手続きの手間をかけて利用するほどではなく実態としては利用されづらいサービスもあります。
こちらに関しては従業員の年齢分布や子どものいる従業員の割合、他の休暇制度とバランスを取りながら見直しが必要です。
(3)人的資本経営に向けた福利厚生
リスキリング
人的資本経営の観点から、自己啓発・能力開発は最も有効な未来への投資です。一般的に研修といえば全員が対象の新人研修の後には幹部候補者研修や管理職初任者研修、階層別・選抜研修がありますが、これらを受けられない従業員も存在します。
昨今、研修を受けられない従業員が40代・50代になって非戦力化した際の対応が特に注目されています。そのため、非戦力化する前のミドル層に対してのアウトリーチ型のキャリア相談や、そこから生じる学習機会への補助、資格取得補助または資格合格時の補助といった福利厚生サービスを促進できるとよいでしょう。
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能力開発
日々のスキルアップが必要な従業員には書籍代のサポートが人気です。たとえば、チームでまとめて同じ本を購入し、読書会を行うこともチーム全体のスキルアップに有効でしょう。当社でも、「人事部内で同じ本を読んで人材育成について考える」「開発部門内で定期的に資料や本を読み合わせて勉強する」「部署の垣根を越えて同じ本を読んで本質的な顧客の成功についてディスカッションをする」といった会が自主的に開かれています。
バランスを意識して自社に合った制度設計を
働き方改革やコロナ禍を受けての状況変化、健康経営や人的資本経営などの人事トレンドに対応しつつ、福利厚生の制度設計では下記の両方をバランスよく取り入れていくことが必要です。
- (1)ワーク・エンゲージメントの向上=生産性向上
- (2)エンプロイー・エンゲージメントの向上=採用の活性化・従業員の定着
さらに、どのようなバランスが適切かは企業ごとの年齢構成や従業員の属性分布により異なります。一般的に人気のある制度やトレンドを参考にしつつも、自社に合った対応をとるべきでしょう。
また、エンプロイー・サーベイの技術的進歩や普及によって、以前に比べ「従業員の満足度や利用状況」を定量的に把握しやすくなりました。これからの経営戦略を担う人事として、人事施策の定量評価を行うことも重要な視点です。福利厚生制度についても同様に、定期的な見直しを図るとよいでしょう。
著者プロフィール
眞柴 亮 株式会社Works Human Intelligence WHI総研
2006年、Works Human Intelligenceの前身である株式会社ワークスアプリケーションズに入社後、通勤手当や寮社宅等福利厚生を専門に、大手法人の制度コンサルおよびシステム導入を担当。
2019年、2020年と子会社の人事給与BPOベンダーである株式会社ワークスビジネスサービスに出向。受託業務の効率化や品質改善に携わるほか、複数顧客に対し人事関連業務のBPRを実施。
出向復帰後は顧客教育部門であるWorks Business Collegeを経て現職。「社員定着率」「生産性向上」を2大テーマに、付随する人事テーマを含めて研究・発信活動を行っている。
株式会社Works Human Intelligence
大手法人向け統合人事システム「COMPANY」の開発・販売・サポートの他、HR 関連サービスの提供を行う。COMPANYは、人事管理、給与計算、勤怠管理、タレントマネジメント等人事にまつわる業務領域を広くカバー。約1200法人グループへの導入実績を持つ。
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