タブー視されがちな「解雇無効時の金銭解決ルール」 働き手にとってもメリットがありそうなワケ:厚労省でも検討開始(4/4 ページ)
これまで立場の弱いとされる働き手を保護する観点から、なかなか整備が進まなかった「解雇の金銭解決」。ここに来て厚労省で整備の動きが出てきている。タブー視されがちな制度がなぜ、今?
Bタイプ社員をAタイプ社員へ転換するためのポイントは、外部労働市場を活性化させることです。社外にBタイプ社員が活躍できる場を増やし、Aタイプ社員に転換する確率を高めるのです。
社内限定でBタイプ社員が活躍できる職務を見つけようとしても限界がありますが、外部労働市場が活性化すれば日本中の会社が選択肢になり得ます。問題は、今は外部に移る場が少ないことです。どの会社にもA〜Dタイプの社員がいて、C・Dタイプの社員は自ら会社を離れて場を空ける可能性があるものの、Bタイプ社員は自ら場を空けることがありません。
もし、Bタイプ社員が会社から離れて場に空きができれば、他の会社のBタイプ社員が新たな活躍の場を得られる可能性が高まります。そうしてBタイプ社員が外部労働市場の中で新たな場を獲得しやすくなれば、Aタイプ社員に転換する確率を高められます。また、Bタイプ社員がいた場に空きができるとC・Dタイプ社員にもチャンスが広がるので、以下の図のような動きがより活発化します。
能動的に場を空けようとしないBタイプ社員は、残念ながら外部労働市場の活性化を阻害する存在です。外部労働市場を活性化させることを考えるなら、Bタイプ社員を解雇する仕組みを検討する必要性が出てきます。もしそれができると、日本でもジョブ型雇用を機能させやすくなります。その足掛かりとなる解雇無効時の金銭解決ルールを検討することは、やみくもにタブー視されるべきではないように思います。
あらためて4つの社員タイプを眺めてみると、会社との関係性が良好な状態にあるのはAタイプ社員だけです。つまり、B・C・Dタイプの社員は不幸な状況に置かれていることになります。
もし、Aタイプ社員への転換確率を高められる外部労働市場を形成できれば、B・C・Dタイプの社員にとっても会社にとっても有益で、社会的メリットがあるといえます。
Bタイプ社員の立場を守ることは大切なことですが、ただ守るだけでは会社と社員のミスマッチ状態も解消されないままになってしまいます。社会からできる限りB・C・D社員を少なくし、Aタイプ社員に転換させていく方向を考えることもまた、同じように大切なことであるはずです。
著者プロフィール・川上敬太郎(かわかみけいたろう)
ワークスタイル研究家。1973年三重県津市出身。愛知大学文学部卒業後、大手人材サービス企業の事業責任者を経て転職。業界専門誌『月刊人材ビジネス』営業推進部部長 兼 編集委員、広報・マーケティング・経営企画・人事部門等の役員・管理職、調査機関『しゅふJOB総合研究所』所長、厚生労働省委託事業検討会委員等を務める。雇用労働分野に20年以上携わり、仕事と家庭の両立を希望する“働く主婦・主夫層”の声のべ4万人以上を調査したレポートは200本を超える。NHK「あさイチ」他メディア出演多数。
現在は、『人材サービスの公益的発展を考える会』主宰、『ヒトラボ』編集長、しゅふJOB総研 研究顧問、すばる審査評価機構株式会社 非常勤監査役、JCAST会社ウォッチ解説者の他、執筆、講演、広報ブランディングアドバイザリー等の活動に従事。日本労務学会員。男女の双子を含む4児の父で兼業主夫。
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