軽トラが買い物難民を救う? コンビニとしのぎを削る移動販売「とくし丸」の挑戦:都市圏でも増加傾向の買い物難民(2/3 ページ)
免許返納などで移動の足がなくなり、買い物難民と化す高齢者が増えている。そうした市場を突き成長を続けるのが移動販売型のスーパー「とくし丸」だ。
筆者は横浜の旧市街地に住んでいるのだが、コロナ禍に入ってから、ネットスーパーや生協宅配の配送車をよく見かけるようになった。最近では気が付けば、とくし丸の移動販売車が近所に来ているのを目にするようになった。とくし丸のお客さんとなり得るのは地方の過疎地に限った話ではない。大都市圏の高齢化進んだ住宅地、中でも郊外部のかつてのニュータウン、団地などには数多くの買い物難民が存在しているわけだ。
農林水産省農林水産政策研究所の「食料品アクセス問題と高齢者の健康」という調査によると、生鮮食品販売店舗まで500メートル以上で自動車のない高齢者の人口は、10年時点で都市部に181万人、地方で202万人だったのが、25年には都市部349万人、地方249万人と推計されている。
都市部では買い物難民が15年で168万人も増えるという試算であり、とくし丸の大きなマーケットが広がっているということになろう。オイシックス社の資料によると、既にイトーヨーカ堂、いなげや、など首都圏のスーパーが加盟スーパーとして名を連ねており、中でも大手イトーヨーカ堂が稼働台数の増加に大きく寄与しているようだ。
とくし丸は食品が中心の商売なので、おおむね、週に2回くらいの頻度でお客であるお年寄りの方々との接点を持つことになるようだ。この顧客との接点を通じて密なコミュニケーション関係を構築することが、売り上げやロスの低減につながっているため、ドライバーとして長く続く人は、コミュニケーション能力が一定水準以上の方々であろう。とくし丸のビジネスが持続していけば、いわゆる行商人としての適性を持ったドライバー集団を抱えた稀有(けう)な組織になるかもしれない。かつての「御用聞き」ビジネスを今に復活させるのだ、と息巻いているようだが、これが実現することによって、そのビジネス領域は食品移動販売からさらに広がっていくことになるだろう。
ただ、ここで留意すべきはコンプライアンス管理の重要性だ。かつて郵便局が高齢者向け商品などの過剰販売で問題を起こしたように、訪問型ビジネスに関しては、コンプライアンス管理をしっかりしておかないと同様の問題が起こる可能性がある。食品以外のさまざまなサービスの展開に当たっては、実際の接点となる現場のドライバーにこうした意識が求められる。
さて、ここまでは買い物難民の支えとなる移動販売に注目して書いてきたが、固定店舗として生活と密接に結び付いた業態であるコンビニエンスストアもさらなる進化の途上にあり、これまで以上に存在感を増していく可能性を持っている。
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