吉野家元常務の舌禍事件から考える マーケティング業界の病巣とシニア権力を持ち続けるリスク:「生娘をシャブ漬け戦略」が生まれた背景は(1/3 ページ)
「生娘をシャブ漬け戦略」という破廉恥ワードはなぜ生まれたのか。背景にはマーケティング業界の問題と、シニア世代の価値観があると筆者は指摘する。
4月16日、早稲田大学の社会人向けマーケティング講座の授業においてなされた、講師の問題発言が大きな話題となった。受講生のSNS投稿をきっかけに発言内容は即座に拡散し、性差別的、人権侵害であるとの猛烈な批判が相次いだ形だ。件の講師は週明けの18日、所属企業であった吉野家の常務取締役企画本部長職と、親会社である吉野家ホールディングスの執行役員から解任されたほか、19日に実施予定だった同社の新商品および新CM発表会も中止となるなど、広範囲に影響を及ぼした。その他、社外アドバイザーを務めていたコンサルティング大手・アクセンチュアも講師との契約を解消。同様にパートナーシップ契約を結んでいたコンサルティング会社・M-Forceからも契約解消され、早稲田大学の講師からも除名される大騒動となっている。
当該講座において、学期を通して取り組む主要テーマの一つが吉野家のマーケティング戦略であり、講師はその課題設定と講評を担当する重要ポジションを任されていた人物であった。受講生のSNS投稿によれば、講師は自社の若年女性向けマーケティングを「生娘をシャブ漬け戦略」と表現し、「田舎から出てきた右も左も分からない若い女の子を無垢・生娘な内に牛丼中毒にする。男に高い飯をおごってもらうようになれば、絶対に食べない」といった趣旨の発言をしたという。
吉野家ホールディングスは講師の発言と解任について「人権・ジェンダー問題の観点から到底許容することのできない職務上著しく不適任な言動」「講座受講者と主催者の皆さま、吉野家をご愛用いただいているお客さまに対して多大なるご迷惑とご不快な思いをさせたことに対し、深くおわび申し上げます」とコメント。早稲田大学も「教育機関として到底容認できるものではありません」とし、当該講師について「講座担当から直ちに降りていただきます」と発表した。
役員解任を含めた一連の騒動は各メディアでも大々的に報道される事態となったが、一部メディアでは説明や見出しにおいて、講師の元の発言である「生娘をシャブ漬け」との文言をそのまま伝えられず、「地方から出てきたばかりの若い女性が薬物中毒になるような企画」などと言い換えており、報道ガイドラインにも抵触するレベルの無配慮な発言であったことがうかがえる。
問題の講師は、グローバル大手の消費財メーカー「P&G」でブランドマネジャーや事業責任者を歴任してきたマーケティング業界の著名人であり、吉野家には2018年から参画。同社で若年女性向けのマーケティング施策を推し進め、現在の好業績に大きく寄与している功労者でもある。よって、一部のマーケティング関係者からは「彼はサービス精神のある人物だから、ウケを狙おうとしただけ」「たった一言でそんなに批判されるとは息苦しい」「そもそもマーケティング用語として一般的な概念だ」と擁護する意見も見られた。
もしかしたら、読者にも同様に思う方がいらっしゃるかもしれない。しかし、筆者として今般の騒動はそのような取り繕った見方では済まされない、大きな課題が顕在化したものだと認識している。気付かぬうちに古い価値観にとらわれてしまっている方は、この機会に考えを改める必要があるのではなかろうか。
既に各所で言及されている人権やジェンダーにまつわる問題点の解説は専門家諸氏に任せるとして、本稿では組織論や、発言者と同年代である40代後半〜50代のシニア世代におけるリスクマネジメントの観点から述べていきたい。論点は3つである。
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