“レバナス投資”で被害続出? 背後に投資系インフルエンサーの影も:古田拓也「今更聞けないお金とビジネス」(2/2 ページ)
米国株ブームで増加した投資系インフルエンサーの推奨により、「レバナス」と呼ばれる投資信託がここ半年で半値近くまで大暴落している。
繰上償還は相場の回復を待ってくれない
ここで、レバナス投資を推奨する投資系インフルエンサーは「ITバブル崩壊時の相場でもレバナス投資を継続していれば着実に利益を生み出すことができる」と主張する。
現に、証券会社のレバナス紹介ページでは、ITバブル最高潮のときに購入した場合でも、バブル崩壊を乗り越えて17年9カ月間保有していれば、レバレッジ2倍をかけて投資したNASDAQ-100はプラスになる旨が記されている。
しかし、図表で指摘されているような98.6%のドローダウンが発生したとすると、「レバナス」も繰上償還に追い込まれ、運用の継続が許されない危険性がある。
現在、楽天投信投資顧問の取り扱う「レバナス」の純資産総額は210億円で、運用口数はおよそ385億口だ。ここで「レバナス」の繰上償還条項を確認すると、受益権の口数が10億口を下回ることになった場合は繰上償還となり、運用が終了する旨が記載されている。
ここで簡易な計算として、385億口にナスダック100指数の2倍レバレッジにおける98.6%のドローダウンを当てはめると、受益権の総数は大底圏で5.3億口まで減少する計算となり、繰上償還のラインに引っかかってしまう。
実際には、繰上償還に先んじて投資家が解約を行ったり、損切りを行ったりすることでも純資産総額や口数は減少する。そのため、実際にITバブル崩壊級のドローダウンが発生するよりも先に、レバナスは繰上償還になる可能性が高い。
「レバナス」のような投資信託はいくつか存在するものの、運用方法に大きな違いはない。1つのレバナスが繰上償還されると連鎖的に他の投信も繰上償還となる可能性が高いのだ。そうなれば、レバナス投資家は下落局面で繰上償還によって強制的に損切りを余儀なくされるだけでなく、運用を継続するための代替手段も見つけられないだろう。
仮に代替手段が見つかったとしても、繰上償還によって確定した損失は、税務上は3年しか繰り越せない。そうすると、繰上償還となったレバナス投資家は、そこから3年以内に損失をカバーできなければ、税務的にも不利な状況に追いやられてしまう。過去のドローダウンでは、相場の回復までに17年9ヶ月かかったことを考えると、3年という損失繰越の期間はあまりにも短いのではないだろうか。
「投資は自己責任」というフレーズもあるが、レバナスを推奨する投資系インフルエンサーは証券会社の社員のような社内規則にとらわれない。推奨にあたりセンセーショナルで断定的なフレーズが用いられている場面も散見される。そういった意味では、レバナスのリスクを十分に把握しないまま、インフルエンサーの言うがままに投資を行っている者は、ある意味で被害者といっても過言ではないだろう。
そんな投資系インフルエンサーの中には、自身のフォロワーに対してFIRE(Financial Independence、 Retire Early)や老後資金の準備のためにレバナス投資を推奨する者もいる。しかし、レバナスには減価リスク、運用終盤での相場下落リスク、繰上償還リスクといった長期投資にとってマイナス要因が大きい。
資産形成は「レバナス」ではなく「レバ無し」で十分だ。
筆者プロフィール:古田拓也 カンバンクラウドCFO
1級FP技能士・FP技能士センター正会員。中央大学卒業後、フィンテックベンチャーにて証券会社の設立や事業会社向けサービス構築を手がけたのち、2022年4月に広告枠のマーケットプレイスを展開するカンバンクラウド株式会社を設立。CFOとしてビジネスモデル構築や財務等を手がける。Twitterはこちら
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