カインズ土屋会長が「慣れない英語で質問」したワケ “IT小売企業”への一歩:長谷川秀樹の「IT酒場放浪記」 カインズのDX編(3/5 ページ)
東急ハンズCIO・メルカリCIOなどを務め、独立した長谷川秀樹氏が、IT改革者と語る「IT酒場放浪記」。今回のゲストは、カインズの土屋裕雅会長。デジタル事業への100億円以上の投資を表明し、IT化を進めているカインズ。その背景にあった「出会い」とは?
経営者がITに興味がないのは当たり前
長谷川: 僕も土屋さんとの出会いで重要なことに気付きました。土屋さんの関心事は、「お客さまにどれだけの便益があるのか」、それだけ。ITやクラウドの話であっても、質問されるのはその一点なんです。
18年ごろのAWSは、まだサーバサイドの技術という向きが強く、導入したからといって急にお客さまに便益が発生するわけではありませんでした。お客さまにとって使いやすいECサイトの画面というのは、UI・UXの設計の問題で、AWSとは関係ない。違う次元の話なんですよね。
土屋: そう言われても、当時の僕にはピンと来ませんでした。
長谷川: 僕が「世の中の経営者、そりゃそうだよな」と悟った瞬間です。IT界隈にはよく「経営者がITのことを分かってくれないからダメなんだ」と言う人がいます。メディアもそんなふうに煽りがちですよね。
でも、それは当然でしょう。企業の存在意義は、お客さまの便益に資することであって、そうでないなら興味が湧かないに決まってる。お客さまにどんな便益があるのかしっかり説明もできずに、「経営者が分かってくれないからDXが進まない」なんて愚痴を言ったところで何の足しにもならないな、と。
「モノからコトへ」で成功した小売業ってなくない?
長谷川: 最近、さまざまな領域で「モノからコトへ」――小売業で言えば「物ではなく体験を売るんだ」と盛んに言われるようになりました。東急ハンズも、新店をオープンするたびに「このスペースは物販ではなく体験コーナーにしてみよう」といった挑戦をしてきました。
売り上げが好調なうちはそれでいいんです。でも、うまくいかなくなると「あのスペースもったいないよね」となる。いろいろ試行錯誤はするものの、結局、「体験コーナーをなくして、商品棚を並べたほうが効率が良い」となってしまうんです。
「モノからコトへ」なんて、空虚な幻想なんじゃないかとすら思えてきました。「モノからコトへ」で成功している小売業ってあるんでしょうか? 土屋さんはどう思いますか?
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