海外は「賃上げラッシュ」なのに、なぜ“安いニッポン”は我が道を行くのか:スピン経済の歩き方(3/6 ページ)
多くの国で「賃上げラッシュ」が起きている。欧米だけでなく、マレーシアや韓国などでも賃上げの報道が続いているが、その一方で、なぜ日本は乗り遅れているのか。背景に何があるのかというと……。
“個人の努力”で乗り切る
このように日本では、「政府による賃上げ」というものが政治力学的に不可能だ。そのため、今起きている世界的な物価上昇も諸外国とまったく異なる「異次元の戦い」をしていくしかない。
それは一言で言ってしまうと、「賃上げ」という“企業側の努力”ではなく、「我慢」や「節約」という“個人の努力”で乗り切るのだ。その一端が分かるのは、日増しに増えていく以下のようなニュースだ。
『カギは「通信費」と「食費」 値上げラッシュに耐える節約術 見直しで月数万円もお得に!』(夕刊フジ 5月13日)
『相次ぐ値上がり!節約術の極意を家計の達人・和田由貴さんが伝授!』(NHK首都圏ナビ 4月25日)
これまで見てきたように、世界では物価上昇には「賃上げ」で対応していくのが常識だ。労働者からの「賃上げ圧力」が強まって政府もそれを後押しするのだ。実際、米国ではアマゾンやスターバックスで続々と労働組合が結成されており、ニューヨークのアップルストアの従業員などは、なんと時給を20ドルから30ドル(約4000円)に引き上げるように要求している、と『日本経済新聞』(4月19日)が報じている。
しかし、日本では「大人の事情」があって、自民党は賃上げを後押しできない。労働者がどんなに「物価高で生活できない」と叫んでも、野党がワーワー騒ぐだけでおしまいだ。となると、残された道は「がんばり」しかない。つまり、「物価が上がっていくけれど給料は据え置き」という“実質的賃下げ”という消耗戦を、家計を切り詰めるという節約術や、ムダな出費を控えるという我慢で乗り切るのだ。
まさしく「欲しがりません、勝つまでは」を地でいく1億総玉砕精神である。窮地に追い込まれたときの日本人の戦い方は、昔も今も基本的に何も変わっていないのだ。
さて、このように政府の怠慢を指摘すると、自民党支持者の経済評論家やジャーナリストの皆さんから決まって出てくるのが、「日本の賃金を引き上げられないのは経済の問題であって政府批判をしてもしょうがない」という擁護論である。
そういうみなさんが、日本の賃上げをはばんでいる「犯人」として挙げているものはざっとこんな感じだ。
- 消費税が悪い
- 円安が悪い
- 企業の株主資本主義が悪い
- 企業が内部留保をため込んでいるのが悪い
- 財務省がケチで財政出動をしないのが悪い
もちろん、このような側面があることは否定しない。しかし、今起きている世界的な「賃上げラッシュ」を見ていると、「賃上げできない」という結論へと誘導していくために、後付けされた言い訳のような気がしてしまう。
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