なぜJR東海は、わざわざ奈良でキャンペーンを始めたのか:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(2/9 ページ)
JR東海の奈良キャンペーン「いざいざ奈良」がスタートした。これまで17年間、JR東海の奈良キャンペーンは「うましうるわし奈良」として展開されてきた。それをなぜ変えたか。なぜ今なのか。背景を考える。
「いざいざ奈良」の前に、なぜ、わざわざ奈良なのか
そもそも奈良はJR西日本のエリアだ。JR東海の路線も駅もない。東海道新幹線も北側の京都を通る。
なぜJR東海はわざわざ奈良でキャンペーンを始めたか。奈良市はリニア中央新幹線が通る見通しだから、その地ならしという見方もある。しかし「リニアは直接関係しない。東海道新幹線の集客キャンペーンだ」とJR東海は明言する。
歴史をたどれば、奈良キャンペーンは1993年の「いま、奈良にいます。」から始まり、2005年に「うましうるわし奈良」に変わった。その後、07年にJR東海がリニア中央新幹線を全額自社負担で建設すると発表した。当時の完成予定は名古屋まで25年、新大阪は45年。「東京〜名古屋間で成功し、資金の目途が付いたら新大阪延伸着手」とした。
名古屋〜新大阪間の正式ルートは決定していないし、奈良市付近を通ったとしても、52年前からキャンペーンを始める理由にはならない。大阪延伸を早めたいという関西政財界の志をくんで、国が財政投融資で支援し、新大阪延伸を37年まで繰り上げた。それでも44年もある。リニアのための観光キャンペーンはずっと先の話だ。
そこで振り出しに戻る。なぜJR東海が奈良の観光キャンペーンを手がけるか。「東海道新幹線の観光キャンペーン」とはどういうことか。
日本の大動脈ともいえる東海道新幹線にわずかながら隙があった。日中と休日需要の落ち込みだ。
コロナ禍以前の東海道新幹線は常に混んでいたという印象で、そろそろ乗客数も回復したように見える。だけど、JR発足時はそうでもなかった。東海道新幹線はビジネスマン御用達であり、利用客は長距離の出張族と短距離の通勤客が大半で、平日日中と休日は空いていた。
膨大なビジネス需要に応えるために、編成長を16両まで増やし、増発のために車両数も増やした。しかしそれが休日に余ってしまう。まるで大都市の通勤路線のような悩みを抱えていた。
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