なぜJR東海は、わざわざ奈良でキャンペーンを始めたのか:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(6/9 ページ)
JR東海の奈良キャンペーン「いざいざ奈良」がスタートした。これまで17年間、JR東海の奈良キャンペーンは「うましうるわし奈良」として展開されてきた。それをなぜ変えたか。なぜ今なのか。背景を考える。
短いキャッチフレーズはTwitter向き
「うましうるわし奈良」の「うまし」は「おいしい」というより「素晴しい」「立派だ」という意味だ。万葉集の「うまし国そ あきづ島 大和の国は」で知られる。奈良といえば寺社、歴史。奈良公園の鹿。その存在が大きすぎて、食の楽しみ、風景、おみやげなど、もっとカジュアルに楽しめる奈良の魅力が隠れてしまった。「うまし」を食の魅力と勘違いすると「思っていた旅と違う」と感じる。その掘り起こしが「いざいざ奈良」といえる。
ただし、ガラリと変わるわけではない。「うましうるわし奈良」キャンペーンも、晩年は奈良の新しい食、観光の試みを紹介していた。新たな要素が増えてくると、17年前のコンセプトのままでは実情に合わない。むしろ歴史色が濃すぎて、歴史に関心が向かない人にとって敬遠しがちだ。そこで現在の奈良にふさわしいキャンペーンにリニューアルしようという判断があったと思われる。
「いざいざ奈良」の「いざ」は「誘う」の古語で、万葉集や古事記に出てくるという。2つ重ねた理由は、誘い合うという思いがこもっているようだ。あるいは1つだと「いざ鎌倉」を連想するからか。奇しくも大河ドラマで鎌倉時代をテーマとしている。ドラマは1年。「いざいざ奈良」は17年の「うましうるわし奈良」を引き継ぐから、もっと長く続くだろう。
シンプルなキャッチコピーだけれども、これに決まるまでは100以上の案が検討されたという。「うましうるわし」は長いけれども7音だから日本語のリズムに合う。「いざいざ」は4音。奈良も入れると6音。キャッチフレーズとしてはちょっと落ち着かないし、短すぎて意図が伝わるかという不安もあったはず。かなり勇気のいる決断だったと思われる。しかし、短いキャッチフレーズはTwitter向きだ。「いざいざ奈良しよう」「いざいざ奈良してきた」と動詞化して表現できるところもいい。現代的だ。
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