営業利益11倍に マツダ地獄からの脱出、最終章:池田直渡「週刊モータージャーナル」(2/5 ページ)
2010年以来マツダが取り組んできたことをひも解いてみる。それは一度マツダ車に乗るとマツダ車から抜け出せない、俗に「マツダ地獄」と揶揄(やゆ)されてきた状況からの脱出だ。
フォード傘下からの離脱と苦しみ
マツダは直近2回の中期経営計画で、高付加価値販売を目標に掲げてきた。かつてのマツダは「新車が売れず大幅値引き→中古車価格が崩壊→トヨタや日産で下取りを断られてやむなく再度マツダ車に乗り換え」が常態化しており、一度マツダ車に乗るとマツダ車から抜け出せない状態を「無間地獄」をもじって、俗に「マツダ地獄」と揶揄(やゆ)されてきた。
100年にも及ぶマツダの歴史を振り返ればキリがないので、「フォード傘下からの離脱」あたりから説明を始めよう。2010年に、提携関係にあったフォードは、リーマンショックの後処理の一環として所有するマツダの株式の大半を売却。フォードとしても止むに止まれぬ事情があってのことだが、グループの一員として主要コンポーネンツの共用を進めて来たマツダにしてみれば、それらを引き上げられることで、結果的に2階に上げてハシゴを外された形になった。
会社を残したければ、自力でコンポーネンツ開発を頑張るしかない。しかしながらマツダは日米欧中に、そこそこバランスよく市場シェアを持っている。それはフォードグループの中で、小型車部門をグローバルに任されてきた結果である。マツダは、巨人フォードの物量を背景に、身の丈以上のラインアップで、身の丈以上に広範なマーケットでビジネスを展開していたわけだ。「シナジー効果があった」という意味ではそれは正しいが、今後はそれを失うということでもある。
フォード傘下離脱直前の2008年、マツダは、日本が19%、北米が29%、欧州が24%、アジアが17%、その他11%と世界各国に分散したシェアを持つものの、合計台数は136万台とトヨタの6分の1でしかない
いずれにしてもフォード製のコンポーネンツはもちろん、フォードから有償で開発委託を受け、自社で設計したコンポーネンツも全て引き上げられてしまうことになる。のたれ死にしたくなければ、必要なプラットフォームとパワートレインを自力で開発するしかない。
今さら慌てて他のグループ傘下に入ろうにも、持参金となるオリジナルコンポーネンツを一切持たない状態では、会社ごと吸収されてブランドが消滅しかねない。そうでないとしても交渉は極めて不利だ。そりゃそうだ。具体的な商品をろくに持たない会社は、買う側からみれば、人と設備を買うことになる。買収先のために、わざわざ自社に計画もない新商品群の開発費を出してくれるお人好しはいない。いくらロードスターがブランドだといっても、所詮(しょせん)は少量生産の2座スポーツカー。ビジネスとしての旨味は知れている。元々自社が推進中の事業計画に買収先の人と設備を投入するのが常識的だ。
つまりマツダには、事実上独立独歩の道しかなかった。マツダの看板を掲げる世界各国の販売店網に信義を通し、全部食わしていこうとすれば、フォード時代と同等のコンポーネンツ群を全部自力で展開しなければならない。ちなみに余談だが、同じフォード傘下にあったボルボもまた全く同じ苦難を味わっている。
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