もはや「左遷先」などではない! “誰でもできる”と思われがちな総務が、どんどん「専門職」になる理由:「総務」から会社を変える(2/2 ページ)
「左遷」させられる──残念ながら、これが一般的な総務のイメージなのかもしれません。しかし、「誰にでもできる」と思われがちな総務の仕事は今後、DXの推進により、どんどん「専門職」へと変化していきそうです。
企業の誕生時、まずは少人数の創業グループとして立ち上がります。当然、スタッフ部門は事務部門として社長が兼務、もしくは全てのスタッフ業務を束ねる担当者が1人存在するかしないかという状況です。
それから、従業員数が増えるにつれ、スタッフ業務の中から専門性が必要とされる経理や人事が単独の部門として「分化」していきます。以降、下記のような分化の歴史がはじまるのです。
専門性が必要とされる部門が分化していく──これは同時に「専門性が必要とされない仕事が総務に残り続ける」という意味でもあります。実際は、総務の仕事にも専門性は必要なのですが、そうとは見なされずに“誰でもできる仕事”が総務に残り続けているのだと捉えられるのです。結果、総務の評価は高まりません。
しかし、この分化の歴史が、今後はどうやら、逆回転していきそうです。
DXにより、各スタッフ部門がコンパクト化
「DX」が、バズワード的に大流行しています。スタッフ部門では、まず人事分野のHRTechから始まり、法務分野のリーガルテック、そして遅まきながら、総務もいろいろなテクノロジーツールが誕生しています。人力で行っていた仕事が、テクノロジーツールを使うことで効率化され、人員が少なくとも仕事が回るようになってきました。
また、総務部門では、BPOが進化しました。常駐型のBPOを活用することで、より少ない人数で業務を回せるようになり、「今まで10人いたのが、2人で回せるようになった」という事例も出てきています。
これは総務のみならず、人事、経理、情報システム部門でもあり得る話です。スタッフの各部門が、テクノロジー、BPO活用でコンパクトになってきている状況です。現時点ではまだコンパクト化の波が及んでいないとしても、今後は進んでいくことが予想されます。
そうなると、スタッフ部門全体はどのようになっていくのでしょうか。想定される事態としては、それぞれのスタッフ部門が少人数で運営されるようになります。作業から解放され、総務部門が戦略総務、考える総務となるように、人事も経理も情シスも、戦略立案、企画立案の考える舞台となっていくでしょう。ある意味、管轄が明確な経営企画部門が多数できるイメージでしょうか。
さらに、今後の総務部門が考えるべき、働く場の多様性やEX(Employee Experience=従業員の就業体験)の向上です。これについては、人事も情報システム部も考えるテーマになると思われます。
つまり、同一のテーマをそれぞれの少人数の部隊が考えていくのです。しかし、先のテーマは、総務も人事も情報システムも一緒になって取り組むテーマでもあります。どこかの部門だけで完結するテーマではありません。それぞれの管轄範囲が有機的に結合して成り立つ、一つのエコシステムの構築が必要とされるのです。
だとしたら、どうせ人数も少ないことですから、一緒になって、それぞれの知見を持ち寄って、一つの部門として一緒に考えていった方が、合理的ですし、まさに生産性が高い仕事の仕方となります。そのような意味で、先に記した文化の歴史が逆回転して、スタッフの統合の歴史に変化していく、というわけです。
一つのテーマの下に、散らばっていったスタッフ部門が集まり統合されていく。それが今後想定されるスタッフ部門の未来予想図ではないでしょうか。……となると、必要なスキルは何か? それは次回、ご説明しましょう。
著者プロフィール・豊田健一(とよだけんいち)
株式会社月刊総務 代表取締役社長、戦略総務研究所 所長
早稲田大学政治経済学部卒業。株式会社リクルート、株式会社魚力で総務課長などを経験。現在、日本で唯一の管理部門向け専門誌『月刊総務』を発行している株式会社月刊総務の代表取締役社長、戦略総務研究所 所長。一般社団法人ファシリティ・オフィスサービス・コンソーシアムの副代表理事や、All Aboutの「総務人事、社内コミュニケーション・ガイド」も務める。
著書に、『リモートワークありきの世界で経営の軸を作る 戦略総務 実践ハンドブック』(日本能率協会マネジメントセンター、以下同)、『マンガでやさしくわかる総務の仕事』、『経営を強くする戦略総務』
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