企業が「黒海」に注目すべき3つの理由 地政学的重要性、ウクライナ戦争で表面化(7/7 ページ)
ロシアによるウクライナ侵攻で、海上ルートとしての「黒海」の地政学的重要性が注目を集めている。なぜ重要なのか、3つの視点からそれぞれ解説する。
冷戦後に“NATOの海”になった黒海
黒海に話を戻す。冷戦が終わると、ロシアの影響力は低下し、ウクライナやジョージアのような黒海周辺の国々も独立を果たした。ルーマニアやブルガリアなどは、NATOだけでなく欧州連合(EU)にも加盟している。
これはつまり、冷戦後の時代に入ると黒海の半分は「NATOの海」になったということだ。見方を変えれば、14年のクリミア半島侵攻から今回のウクライナ戦争に至るまでのロシアとNATOの争いは、陸上での領土争いということ以上に、黒海を巡る勢力圏争いでもあったということだ。
そしてロシアは、今回の戦争で、ソ連時代の黒海のコントロールを、一時的にせよ復活させたと言える。
「ルートを支配すること」の重要性
米海軍出身の戦略家JCワイリーは、かつて戦略の最大の狙いは、相手に対していかに優位な状況を確立できるか、つまり「コントロールできるかどうか」であると説いた。
単純な「戦場での勝利」ではなく、それを含めた状況での優位の確保が、戦争の勝利だけでなく、その後の平和の構築や維持においても決定的に重要であると見抜いていたからだ。
これを現在行われている戦争に当てはめて考えると、ロシアとウクライナ(NATO)の最大の争点のうちの一つは、もちろんメディアで注目されているような東部ドンバス地方の陸上戦闘でもあるのだが、それ以上に「誰が黒海の海上ルートをコントロールするか」にあるとも言える。
この考え方は、そのまま日本にも当てはめて考えることができる。例えば、日本経済の動向に直結する海域や海上ルートとしては、黒海よりも潜在的なインパクトの大きいペルシャ湾や南シナ海が挙げられる。こうした海域が、誰によってコントロールされるかというのは、軍事的にも商業的にもそこを利用する国々にとって致命的に重要なのだ。
軍事でも経営でも「ルートをコントロールすること」の重要性は共通しているのである。
書き手:奥山 真司(おくやま・まさし)
1972年9月5日、神奈川県横浜市生まれ。国際地政学研究所上席研究員。
2002年ブリティッシュ・コロンビア大学(カナダ)地理・哲学科卒業。11年レディング大学(英国)大学院戦略研究学科博士課程修了、博士(戦略学)。地政学や戦略学、国際関係などが専門。レディング大院では戦略学の第一人者コリン・グレイ博士(米レーガン政権の核戦略アドバイザー)に師事した。現在は政府や企業などで地政学や戦略論を教える他、戦略学系書籍の翻訳などを手掛ける。
著書に『地政学:アメリカの世界戦略地図』(五月書房)、『世界を変えたいのなら一度武器を捨ててしまおう』(フォレスト出版)、監修書に『サクッとわかるビジネス教養 地政学』(新星出版社)、訳書にクライブ・ハミルトン『目に見えぬ侵略 中国のオーストラリア支配計画』(飛鳥新社)、『ルトワックの“クーデター入門”』(芙蓉書房出版)など。
ニコニコ動画やYouTubeで地政学や国際情勢に関するニュース番組「地政学者・奥山真司の『アメリカ通信』」(毎週火曜日午後8時30分〜)を配信中。
Twitter:@masatheman
ブログ:「地政学を英国で学んだ」
関連記事
- 「ニコニコ動画」と「YouTube」、どちらが稼げるか論争 ドワンゴCOOの見解が「めっちゃ真理説いてる」などと話題
動画クリエイターにとって、主要な動画投稿サイト「ニコニコ動画」と「YouTube」のどちらが稼げるのかという論争に関して、ニコニコ動画の代表で、ドワンゴの栗田穣崇COOの見解が「めっちゃ真理説いてる」などと注目を集めている。 - 第三者が「スーパーニンテンドーワールド」「童貞を殺すセーター」を商標出願 第二の「ゆっくり茶番劇」騒動に?
ゆっくり茶番劇同様、第三者が「スーパーニンテンドーワールド」と「童貞を殺すセーター」を文字列として特許庁に商標出願していることが分かった。記事執筆時点では、いずれも出願が受理されたのみで、審査待ちの状態だが、今後の状況次第では、第二の“「ゆっくり茶番劇」騒動”に発展する可能性がある。 - YouTuber「柚葉」さん、「ゆっくり茶番劇」の商標登録を抹消申請 「誹謗中傷で本来の目的を全うすることが困難」
動画サービス「ニコニコ動画」などで親しまれてきた「ゆっくり茶番劇」が第三者に文字商標として登録された問題で、商標権者とみられるYouTuber「柚葉」さんが、自身の公式Twitterアカウントで、ゆっくり茶番劇の商標登録を抹消する申請を出したと発表した。 - 「転売ヤーから購入しないで」――埼玉県の“サウナーの聖地”、限定ハット販売巡る混乱で謝罪
“サウナ好きの聖地”とも呼ばれる老舗温浴施設「湯乃泉 草加健康センター」は、サウナハット専門店「ベストサウナハット」とコラボした限定サウナハットの販売を巡り、混乱があったとして謝罪した。同施設は販売方法などを今後改善する方針を示している。 - カップヌードルの「溶けたアイスのフタ止めフィギュア」が話題 制作の狙いは? 日清食品の広報に聞く
日清食品ホールディングス(HD)が販売する「カップヌードル」の公式Twitterアカウントが公開した「溶けたアイスのフタ止めフィギュア」が話題となっている。なぜこうしたものを制作したのか。狙いを日清広報に聞いた。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.