楽天モバイル「0円廃止」 ブランド毀損とユーザー離れよりも深刻そうな余波:優良事業にも影響か(2/3 ページ)
安さを売りに携帯キャリアへ打って出た楽天モバイルだが、ここにきて急ブレーキがかかりそうだ。スマートフォンを複数台持ちするユーザーを中心に契約者を増やしてきた「0円プラン」を廃止する。ユーザー離れも懸念されるが、筆者はそれ以上に深刻そうな影響を指摘する。
今回の発表以降、筆者の周囲でも「楽天解約」の動きが目立っています。もちろん、0円プランがスタートして以降になされた新規契約の全てが解約になるようなことはあり得ないでしょう。しかし、早くもこの影響でauの「povo」やソフトバンクの「LINEMO」といった格安プランの新規契約数が急増する動きが出ており、またソフトバンクはLINEMOを半年実質無料にするサービスを発表するなど、“楽天はがし”の動きも活発化しています。
楽天グループの三木谷浩史会長兼社長は直近のインタビューで、0円プラン廃止による契約者の流出の動きについて「想定内であり問題ない」と話しています。確かにバーゲンハンターたちが退出してくれることは、ありがたいことかもしれません。しかし問題は「大赤字」「実質値上げ」「解約続出」といった言葉が、報道やWeb上で踊ることによるブランドイメージの毀損(きそん)です。
ただでさえ3キャリアの後塵を拝している後発キャリアであり、かつこれまでことあるごとにいわれてきた「つながりにくい」というイメージも強いだけに、さらにマイナスイメージが付くことは今後の契約者増強策にも少なからず影響は出るでしょう。先行3キャリアとのイメージ格差は縮めることができず、ますます苦しい戦いが続くと思われます。
政治にも翻弄された
このような戦略的失敗による巨額赤字と先行きの見通しの立たない状況に、若干同情の余地があるとすれば、その根本原因が政府にあると思える点でしょうか。
もともと、3キャリアの実質談合状態による利用料金高止まりの是正に向けて、起爆剤的に投入されたのが第4の通信キャリアである楽天モバイルだったわけです。楽天が業界に新規参入して価格破壊を起こすなら、先行3キャリアも市場原理に従って適正水準に価格が落ち着かせるのではないか、というのが楽天に通信免許を下した最大の理由であったはずでした。
ところが総務大臣経験者の菅官房長官(当時)が、小泉純一郎元首相の郵政民営化発言よろしく、政治家の人気取り的持論として「携帯料金官製値下げ圧力」を発動。しかも菅氏が首相にまでのぼり詰めてしまったことで、まず政府が大株主であるNTTドコモがこれに従い、au、ソフトバンクも追随するという予想だにしなかった事態になってしまったわけです。
楽天からすれば「話が違う」ということであったでしょうし、三木谷会長は首相とはいえ一政治家の人気取りのせいで結果的に事業の赤字が当初の想定を大幅に超えるレベルにまで膨らんでしまったことには、納得がいっていないに違いありません。「ぶっちゃけ0円で使い続けられても困る」と決算会見で思わず本音をもらしたのは、はからずも巨額赤字がこの上なく大きな重しになっていることを吐露した瞬間でもありました。
思わぬ「0円廃止」の余波が
会見の数日後、個人的には0円プランの廃止以上に衝撃的と思える話が飛び込んできました。楽天証券を上場させる計画の発表です。
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