「年俸制」は企業と労働者、どちらに有利な制度なのか?:ヒントは社会保険料(3/3 ページ)
正社員への給与の支払い方法は主に2パターンある。「年俸制」と「月給制」だ。月給制を採用する企業が多いようだが、そもそも年俸制とはどういう仕組みなのか? また、年俸制は企業と労働者どちらに有利な制度なのか?
年俸制の誤解 「残業代は支払わなくてもいい?」
社労士をしていると、年俸制と賃金の関係について誤った認識を持っている企業担当者に出くわすこともあります。その代表的なものが、「年俸制を導入していれば、残業代を支払わなくてもいいのでは」という考えです。
管理職や一部の認められた専門職以外には、残業代を支払わなければなりません。昨今では、管理職の定義についても「名ばかり管理職」の問題が発生したことから、実態に合うどうかを精査されるようになっています。マネジャーや責任者などの役職名が付いているからといっても、それに見合った権限が付与されていなかったり、部下がいなかったりする場合は管理職とは認められません。
月○○時間という固定残業代を含んでいる場合も、該当する社員がその時間数を超えて働いた月には、残業代を支払う必要があります。フレックスタイム制を導入している場合も同様で実労働時間が、法定で定められた労働時間を上回った場合は、残業代の支払いが必要です。
20年4月以降、民法および労働基準法の改正(賃金請求権の消滅時効期間の延長)により、未払い残業代をさかのぼって請求できる期間が2年から3年に延長されました。これに伴い、未払い残業代の請求が認められた場合の支払い金額が膨らむ恐れがあります。企業側としては、年俸制採用者の残業代の支払いについて、矛盾点がないかの確認されたほうがよいでしょう。
また、社員が欠勤や遅刻などしても給料を減額できないと思っている人もいますが、他の給与体系で働いている人同様、労働基準法上の範囲であれば減額できます。ただし、就業規則にその旨を定めておく必要はあります。年俸制を導入した場合の賃金の支払い方法について不明点がある場合は、東京労働局が公表している公式Webページを参考にするとよいです。
一般的に、年俸制を導入する会社のほうが、賃金に関してのトラブルが発生するリスクが高い傾向にあります。年俸制を採用するにあたり、残業代の支払いや欠勤、遅刻などによる控除など就業規則・賃金規定に必要な記載が足りているかを確認しましょう。賃金請求権の消滅時効期間の延長に伴い、未払い残業代に関する訴訟は増えると予想されますので、その点について留意する必要があります。
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