SmartHRの営業社員はなぜ成果を出し続けられるのか? トップ営業に頼らない組織運営の裏側:先駆者たちの「セールスイネーブルメント」(3/3 ページ)
SmartHRの営業社員はここ3年で3倍以上に増加した。採用・育成コストが数倍になる中でも、営業組織の目標を達成し続け、営業成績は右肩上がりだという。組織規模の拡大と営業成績の達成をどのように両立させているのか? 全員が成果を出し続ける仕組みの秘けつを聞いた。
営業のフラストレーション減少と目標の達成
──社内の営業からはどのような声がありますか?
以前は、組織が拡大していくつかのチームに分かれた際に「そのナレッジは知らなかった」「チーム全体で共有してくださいよ」という声が各方面から上がっていました。
今はナレッジ共有に対するフラストレーションは、少なくなったように思います。アンケートでも「いつもありがたいと思っています。もうこの仕組みがなければ進みません」と書いてくれているのを見たことがあります。常にセールスの6割がナレッジ共有ツールにログインしている。そういった光景を見ると、少しでも営業に貢献できているなと思いますね。
こちら側がナレッジ作りのために「ヒアリングの時間をください」「こういうことをやってください」とお願いしても、誰も嫌な顔一つせず受け入れてくださるんです。仕組みを作っている側としても、営業のコアタイムにやらないように、時間を奪いすぎないようにといったことは意識しています。
──実際、セールスイネーブルメントを実施してみて効果はどうでしょうか?
正直、セールスイネーブルメントだけでなくプロダクト改善や採用、マーケティングなど全社での取り組みがあってこその結果だと思います。ただ、19年から現在までT2D3を順調に達成できています。
19年に26人だったセールスも1年後に43人になり、20年9月に83人、現在は103人になりました。毎年倍になるような組織成長をしてきましたが、立ち上がり基準として置いている入社半年の目標受注金額に対する達成度も19年以降継続して70%台をキープできています。セールスイネーブルメントの取り組みを実施し、スキルが一定化されたからこその成果だと思っています。
成果主義だからこそ、一定の成果が出る仕組み作りを
──約3年ほどかけてセールスイネーブルメントに取り組んできて、今はこの取り組みをどう定義しているのでしょうか?
最近、メンバーと話をしていてしっくりきたことがあります。セールスイネーブルメントは「トップセールスを作るもの」とよくいわれます。しかし、できるだけ全員が一定の成果を上げられるようにすることで「営業という仕事を通して、ハッピーになる人を増やす」ことも重要なのではないか、という発言がありました。
やはり営業という職種柄、成果が上がらないとつまらないと感じたり、評価が上がらないと辞めたくなったりもすると思います。それゆえに、熱意を持って入社したとしても、売れないことで、やる気を失ってしまう人もいるかもしれません。
セールスイネーブルメントは、そのような状況を可能な限り減らし、営業全体を一定のレベルまで引き上げるための「土台や仕組み」なのではないかと思います。
──では、最後に今後の展望についてお聞かせください。
受注につなげるためには、個々のお客さまの要望に合った適切なアクションを取る必要があります。そのためには、相手の意図を汲んだコミュニケーションや営業スキルが不可欠です。
これまでの取り組みを通して、その辺りのナレッジは社内で共有・活用できていると実感しています。今後は、それぞれの営業の適性を踏まえながら、スキルの生かし方を模索し、より成果が出せる仕組み作りの確立に注力していきたいと思います。
著者:大矢剛大(ブレーンバディ代表取締役)
大学卒業後、新卒で入社した株式会社マイナビを経て、株式会社リクルートキャリア(現:株式会社リクルート)に転職。リクルートキャリアでは、最優秀新人賞、MVP、アワードなど複数受賞。また、自組織から表彰者も多数輩出させた。その後、HRスタートアップに事業責任者として創業から携わり、事業立ち上げや営業組織の構築を行う。2020年に独立し、複数企業の営業コンサルティングを行う。
2021年4月に本格的にセールス・イネーブルメント事業を行うべく株式会社ブレーンバディを設立。代表取締役に就任。
Twitter:@YoshihiroOya
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
「営業配属だけはイヤだ」 新卒は、なぜ営業職にアレルギーを持つのか?
「企業の人材不足」に関する調査によると、「営業職」の人員不足が最も高いことが分かった。「営業はキツい」「新規営業をやっている女の子が泣いていた」などSNS上では営業職に関するネガティブなエピソードも見られる。しかし、総合職の約7割が営業職に配属される時代だ。企業側は苦手意識を持つ新卒をどのようにマネジメントすべきか?
どちらの評価が高い? ノー残業デーに残業して目標達成率120% VS 定時退社で達成率100%
働き方改革に伴い「ノー残業デー」を導入する企業が増えてきた。ノー残業デーにもかかわらず、仕事をしている社員もまだいると聞く。ノー残業デーに仕事をして目標達成率120%の社員と定時退社で達成率100%の社員はどちらより高く評価されるのだろうか? 人事評価に関する3つのポイントから解説する。
月400時間労働のブラック企業、平均残業4時間の超ホワイト企業に 大変革を支えた「3つの制度」とは?
2000年創業のシステム開発のゆめみ、一部の創業メンバーの当時の労働時間は月に400時間を超えていたという。離職率が20%超えの時期もあった。創業したばかりという状況はあるものの、ブラック企業と言っても過言ではない。そんな企業が改善を重ね、月165時間労働・離職率2%にまでたどり着いた。どのような取り組みがあったのだろうか? 変革の要となった3つの制度とともに振り返ってみたい。
「仕事終わっていないけど、定時で上がります」 中年社員は新卒との”ジェネレーションギャップ”をどう解消すべきか?
上司や先輩は、4月に入社した新入社員に新鮮さを感じるとともに、ジェネレーションギャップに悩みはじめるタイミングだろう。最近の若者は働くにあたってどのような意識を持っているのか? また、ジェネレーションギャップを解消するために中年社員はどのような働きがけをすべきだろうか?
コロナ禍で成功パターンが消えた──逆境のベルフェイスを「受注率10倍」に導いた秘策
オンライン営業システムを提供するベルフェイスにとって、コロナ禍は逆境だった。多くの人がWeb会議システムで商談をすることに慣れ、競合は増え、電話商談の機会は減ったからだ。そんな中、セールスイネーブルメントに取り組んだことで、受注率は約10倍になったという。一体どんな取り組みを行っているのだろうか。

