【新潮流】SaaS×Fintechを理解するための3つのポイント(2/5 ページ)
Fintechの流れがBtoBビジネスでも急速に拡大しつつある。背景にはクラウド型のソフトウェアである「SaaS」の成長が大きい。なぜ、FintechとSaaSは融合が進み、ビジネス拡大の可能性を秘めているのか。
企業のお金にまつわる業務はアナログで溢れている
「企業間の取引体験は今後“amazon化”する」と述べるのは、法人支出管理SaaS「バクラク」シリーズを提供するLayerXの福島氏だ。
従来より企業のお金にまつわる業務のインフラは金融機関が担っており、決済や融資といった機能は長きに渡り銀行の主要なビジネスであった。これまで当たり前のように受け入れられてきた既存の金融サービスだが、企業のIT化・SaaS導入が進む中で、変革の波が見られる。
下記の画像はLayerX社が表現する「これまで」と「これから」の請求書の処理フローだ。
従来からの一般的な経理プロセスである「紙とハンコの世界」では、デジタル化が進む現在においても紙や手入力といったアナログな業務が色濃く残っていることが分かる。
一方で既に現実のサービスとしても実装されている「デジタルの世界」のプロセスでは、人手を介す処理は非常に少ない。
「私たちが個人としてECサイトで買い物をしようとすると、ネット上でワンクリックで全て完結します。一方で、企業間取引においては、従来からの手間が残り続けています。BtoCの購買体験のようにBtoB取引のあり方も今後変わっていきます」と、請求書をベースとした決済プロセスは、今後デジタルなやり取りに変化していくと福島氏は指摘する。
同社が提供する「バクラク」シリーズはいずれもこれらのプロセスのデジタル化を推し進めるプロダクトであり、企業の経理業務の効率化推進に期待がかかる。
このような企業のお金にまつわる業務の効率化は請求書の処理や決済だけに留まらない。
介護・医療業界向け人材紹介を主力とするエス・エム・エスは、介護事業者向けサービス「カイポケ」を提供する中で、業種に特化したファクタリング(債権の買り取りサービス)の提供を2014年から開始している。
介護施設が受け取る介護報酬は、国保連に請求後、入金まで1.5カ月間のタイムラグが発生する。エス・エム・エスは、この債権を一定の手数料で買い取り、最短5営業日で入金を行うサービスを提供している。
介護サービスの運営者は中小の事業者が大半であり、日々の資金繰りに追われる企業は少なくない。一般的なファクタリングサービスを利用すれば手数料が高く、銀行での融資は時間を要する。
エス・エム・エスは、介護報酬といった回収リスクの極めて少ない債権買取サービスをSaaSを使い、シームレスな導線を提供することで着実な収益を上げている。
これらの事例のように「企業のお金にまつわる体験の向上余地」は多くの領域に残っている。
IT調査会社ガートナーの調べによれば、国内のSaaS化率は21年4月には4割を超え、アーリーアダプターからアーリーマジョリティに移行しており、キャズムを突破しつつある。
さまざまなユーザーデータを内包するSaaSプロダクトが普及しはじめた中で「アナログに溢れた企業の金融体験」の変革がまさにこれから始まろうとしている。
関連記事
- Slack越えの最速成長、グローバル人材市場を変革するSaaS企業ディールとは
海外進出を目指す企業や、国外の高度人材を必要とする企業にとって、海外での人材雇用はこれまで大きな障壁となっていた。こうした手間のかかる一連の労務管理を、1つのプラットフォーム上で完結させるスタートアップが現れた。グローバル人材の労務管理SaaSを提供する米国発のディール(Deel)だ。 - 【対談】バーティカルSaaSトップランナーに共通する成長戦略とは
調剤薬局向けに電子薬歴システムを提供するカケハシ、建設業界で労務安全書類作成・管理クラウドサービスを展開するMCデータプラス。国内でも屈指のユーザー規模を持つSaaS企業は今後の成長をどのように描いていくのか。それぞれの領域で大きな存在感を示す2社の代表対談を企画し、バーティカルSaaS拡大に向けた戦略の要点を聞いた。 - 【解説】バーティカルSaaS 国内でも盛り上がりの兆し
最近、注目を集めている“バーティカルSaaS"という言葉を聞いたことがあるだろうか。業界を問わず利用されるクラウド型のシステムは、部署や部門の課題を水平的にカバーすることから“ホリゾンタルSaaS"と呼ばれている。一方「建設」や「不動産」など、特定の業界に根付いた課題を解決するシステムは、垂直を意味する“バーティカルSaaS"と呼ばれ、徐々に認知が広まってきている。 - 上方修正からさらに上振れのマネフォ決算 SaaS ARRは40%増の129億円に
再び事業成長にフォーカスし、いったんの黒字化を経て投資を再度強化したマネーフォワード。4月13日に発表した第1四半期(2021年12月−2022年2月)決算は、計画を大きく上振れした着地となった。 - SaaS企業の時価総額はなぜ高いのか?
この数年、SaaS企業は新興企業向け株式市場マザーズのIPOにおいて大きな存在感を見せています。新興市場のけん引役ともいえるほど躍進をしたSaaS企業ですが、果たしてこの勢いは、21年以降も続いていくのでしょうか。 - ビジネスパーソンのためのSaaS KPI入門
ビジネス用語として定着した“SaaS”ですが、このビジネスを理解する上で欠かせないのが「SaaS KPI」と呼ばれる指標です。この記事では、SaaSビジネスにおいて、国内トップランナーであるfreeeの決算説明資料を基に、ビジネスパーソンが最低限押さえておきたいSaaS KPIの解説を行っていきます。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.