旧本社から目と鼻の先に移動したJT 担当者が「単なる引越しじゃない」と話すワケ:オフィス探訪(JT前編)(1/4 ページ)
日本たばこ産業(以下、JT)は、2020年10月に本社を旧JTビル(東京都港区)から移転した。なぜ移転したのか。そこには移転前に課題だった部署間の縦割り構造を打破する狙いがあるという。
連載:オフィス探訪
長引くコロナ禍の影響は、人々の生活様式を変貌させた。それはビジネスパーソンの働き方もしかり。「働く場所=会社のオフィス」が当たり前だった世界は消え、テレワークが浸透した現代では、オフィスだけでなく自宅、コワーキングスペース、シェアオフィス、カフェに至るまで“働く場”は多様化している。
この連載では、“働く場”の再定義が余儀なくされた現代において会社がどう対応するべきか。先進的な取り組みを行う企業を紹介していく。
日本たばこ産業(以下、JT)は、2020年10月に本社を旧JTビル(東京都港区)から移転した。新オフィスビルではABW(Activity Based Working)を導入し、執務席を固定せずに従業員が自由に働く場を選択できる仕組みを採用した。移転前に課題だった部署間の縦割り構造を打破する狙いだという。
移転先は、旧JTビルの目と鼻の先にある神谷町トラストタワー(東京都港区)の26〜30階。賃貸しているのは5フロアだが、1フロアの面積が広く、合計敷地面積は1万9254平方メートルに及ぶ。旧JTビルで使用していた面積は22フロア、約2万1886平方メートルだったので、コロナ禍での移転に関わらずあまり縮小していないことにまず驚いた。ここで本社勤務の約1300人が働いている。現在の出社率は平均で約30%。従業員は、テレワークとオフィス出社を自由に選択できる。
移転先を旧JTビルとかなり近い場所としたことには理由がある。30年ほどこの地域に根付き、街の清掃活動や神社の祭りに参加するなどの地域貢献活動を行っていた同社。地域との関係性を築いてきたこともあり、離れたくなかったとか。
単なる引越しプロジェクトではなく、働き方自体を変容したい
今回の移転について、PMO(プロジェクトマネジメントオフィス)の一人である人事部次長の高嶋由紀氏(正しくは「高」は、はしご高)は、「単なる引越しプロジェクトではなく、働き方を変えるプロジェクトだった」と強調する。
「旧JTビルでは組織のサイロ化の傾向が見え、自分たちのアイデアを生み出す土壌を硬直化させているのではないかという懸念がありました。そこで、社員の行動変容を促すようなプラットフォームの場を持つために移転しました」と高嶋氏。プロジェクトメンバーで人事部課長の前場雄一氏も「旧JTビルは1フロアが狭く、組織間で連携がしづらかった」と語る。
その言葉通り、旧JTビルは縦長だったため、1フロアの面積は現在のビルの約4分の1。エレベーターホールを挟んで2部署ほどしか入れなかった。従業員は基本的に会議室と執務席の往復で、他部署の社員とのコミュニケーションはほとんどなく、社外の人と集まれる場所もなかった。他社との協創も生まれにくいオフィス環境だったという。
そうした状況を如実に表したこんなエピソードがある。社員交流の場として、社員食堂にカフェを作ったことがある。するとなぜか若手社員が多く集まってきた。ただ、若手社員は交流を図るためでも、コーヒーを飲みに来たわけでもない。
ではなぜ集まるのか。“集中して仕事をするため”という。経験した人も多いかもしれないが、自席で仕事をすると先輩や上司から雑務を指示され、自分の仕事が進まなくなることがある。それを避けるために集まっていたのだ。そうしてカフェは若手のたまり場となり、話をする場のはずが、静かに仕事をする「集中スペース」のようになってしまい、当初の目的を果たせなかったという。
「新オフィスは、従業員の働きやすさを高め、エンゲージメントを向上させるにはどのようなワークプレイスがいいのかを考えて設計しました」(前場氏)
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