アップルはどこへ向かう? 成熟した市場の中で、“王者の道”を探る:本田雅一の時事想々(2/5 ページ)
近年のアップルについて「世の中を刷新しようとしていない」「つまらなくなった」などの論調で嘆く声を耳にする。成熟した市場の中で、アップルは今後の成長軸をどこに見据えているのだろうか?
アップルはどこへ向かう? イノベーターとしての役割は終了
アップルの成長軸の一つはここ数年、顕著に成長を続けているサービス事業だ。
ネットワークストレージから映像配信、音楽配信、ゲームなど、iPhoneを中心とするアップル製品で楽しむコンテンツやより便利に使うためのネットワークサービスを統合し、さらにパッケージでお得に使えるApple Oneというプランも用意している。
強力なiPhoneのユーザー基盤をテコに成長を続けていることが、サービス事業の急成長を支えていることは間違いない。ただし、同社の収支報告の数字だけを見てアップルがサービス事業を中心にしたビジネスモデルに転換しようとしているという見方には、多分に誤解を生む側面もある。
アップルが提供するサービスは、いずれも「同社製ハードウェアの魅力を高めるために提供されている」という原則があるからだ。単独のサービスとして魅力的である必要はあるが、一方でアップル製品を使いたいと思うモチベーションでなければならない。
サービスがハードウェア製品を強化し、魅力的なハードウェアがサービスの魅力をより多く引き出す。この関係性を強めるために、半導体技術、信号処理技術、OSなど基本ソフトウェアと付随する開発ツール、それらの上で動くアプリケーションソフトウェア、そしてサービスを統合的に開発している。
「近年のアップルは世の中を刷新しようとしていない」「つまらなくなった」という論調で嘆く声も耳にするが、それもそのはずだ。アップルはこれまで破壊的なイノベーションで業界全体を刷新した。ライバルも存在するが、いずれもアップルのコンセプトのフォロワーでもある。
その結果、アップルの製品やソフトウェア技術は、刷新された新しいテックワールドの標準、インフラそのものとなった。
そしてここ数年は、上述の通りインフラとネットワークサービスをタイトに統合することで、体験の質をコントロールしようとしている。
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