アップルはどこへ向かう? 成熟した市場の中で、“王者の道”を探る:本田雅一の時事想々(3/5 ページ)
近年のアップルについて「世の中を刷新しようとしていない」「つまらなくなった」などの論調で嘆く声を耳にする。成熟した市場の中で、アップルは今後の成長軸をどこに見据えているのだろうか?
「作り上げたい製品のために」 自社開発のシステムで統合
こうした覇道ともいえる手法は、別の側面からも明らかだ。現在アップルは、ライバルが手を出しにくい領域で、ライバルのことを気にすることなく自分たちの道を歩んでいる。
ご存じの通りアップルは2年前、Macに採用するプロセッサをPC業界の標準でもあるインテルから独自設計のSoC(System on a Chip)に変更すると発表し、その計画を着実に実行してきた。2022年中にはその計画も完了することだろう。
同社は他社が開発するSoCとの違いについて、一貫して「われわれは最終的に作り上げたい製品のために半導体を設計している」と話してきた。インテル、AMD、クアルコム、メディアテックなどは、それぞれPCやスマートフォン、タブレットメーカーのためにSoCを開発してきた。しかしアップルにはそうした顧客はいない。アップルの顧客は、あくまでも製品を購入してくれるユーザーである。
例えば近年、アップルはSoC能力でカメラ画質を上げることに力を入れ、映像処理技術や映像情報を分析する能力を高めようとしてきた。どうすれば目的を達成できるかを吟味し、必要な映像信号処理、機械学習処理などを検討して自社開発のSoCに内蔵する専用の処理回路の設計。これらを、実際に製品をリリースする数年前から準備し始める。
その結果、競争力のあるカメラ機能が生まれるが、それはiPhoneだけのものではない。iPadシリーズ、各種Macやディスプレイ内蔵カメラなど、それぞれの製品が備えるカメラ構成や製品が使われる場面に応じて機能もカスタマイズされる。
今年の年末にリリースされる、iPhone、iPad、Mac向けの基本ソフトには、カメラだけではなくさまざまな側面での開発成果を、それぞれの機器が使われる場面や機器の特性に合わせて組み込もうとしている様子がうかがえた。
7月になればiOS 16/iPadOS 16など各種OSのパブリックベータ版という先行リリースがダウンロード可能になるため、異なる製品カテゴリー間でさまざまな形で開発成果が共有されていることが知られるようになるだろう。
もともとこうした垂直統合技術がアップル製品の魅力を高めていたが、異なるジャンルにまたがってその強みを共有できているライバルはおらず、また追いかけることができそうなライバルもいない。
ここまででお気付きだろうが、自社でSoCを開発することが利点なのではない。スケールメリットを得られるかといえば疑問だ。しかし彼らが売っているのはSoCではなく最終製品。そこでのシナジーを得るために、製品を差別化するあらゆる要素をコントロールしようとしている。
そしてMacを自社製半導体に更新し始めてから2つ目の大きな基本ソフトのリリースがあるこの年末、完成度は確実に高まっている。
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