「出社=昭和」「在宅=革新的」って本当? NTTとホンダの経営哲学:河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(3/4 ページ)
コロナ禍が落ち着き、企業は今後の働き方を選ぶ局面に立っている。NTTグループは「原則在宅勤務」、ホンダは「原則出社」と、真逆の方針を発表した。「出社=昭和」「在宅=革新的」とする言説もあるが、両社の選択にはこうした極論では語れない背景がある。どういうことかというと……。
件の澤田社長の「ワーク・イン・ライフ」という主張が、経営哲学なのかどうかは報道からは分かりません。
しかし、私が知る限りNTTグループはこれまでも徹底して「働く人、一人一人がいきいきと働くため」の制度や教育をしていました。特に教育制度などにおける「人への投資」はずばぬけている印象があります。
「出社=昭和」「在宅=革新的」なのか?
ここで伝えたいのは「出社」=昭和の働き方でもなければ、「在宅」=いい人材が集まるとは限らないということです。
ましてや、「全員出社」=「生産性が高まる」わけでもなければ、「全員在宅」=「生産性向上が課題」でもない。
「経営者のゆるぎない経営哲学」「会社が存在する意味」「大切にすべき有形無形の道具」を、会社の全てのメンバーに共有することこそが重要な課題であり、その結果として生産性が向上するのです。
例えば、今では諸悪の根源のごとく言わる「長期雇用」も従来は制度ではなく、経営者の経営哲学でした(終身雇用という言葉が多用されますが、私は長期雇用という表現を使っています)。
「長期雇用」は、1955年から1年以上にわたって日本企業をフィールド調査した経営学者ジェームス・C・アべグレンが、日本企業を支える経営の“三種の神器”の一つとしてあげたものです。もともとの言葉は「Lifetime Commitment」。「あなたの人生に関わらせてくださいね」という、経営者としての熱意と責任を社員に示す経営哲学でした。
私は全国津々浦々1000社以上の企業を講演会や取材で訪問していますが、社員がイキイキと働く企業は例外なく長期雇用が基本でした。そして、付加価値の高い製品を生み出す現場の力があった。その結果として、世界シェアを伸ばしていたのです。
極論を言えば、基本在宅でも出社でも、どちらでもいい。自分の価値基準と合わなければ、その会社を選ばなければ良いだけのこと。
一方で、「働く人たちは労働力を提供しているのであって、人格を提供しているわけではない」のですから、国のいう「在宅勤務を選択する権利」は労働政策として認めることも必要不可欠でしょう。
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