「手に負えませんよ」 アイデアがない残業だらけの会社で起きた「時短」の裏側:長時間労働の是正(4/4 ページ)
「働き方改革」がメディアに登場することが多くなるにつれ、長時間労働の是正に本腰を入れ始める会社が増えていきました。それと同時に、人材を確保するためには、働く環境の改善に取り組まざるを得なくなったことも大きな要因でした。時短に向けた取り組みは各社さまざまです。その一方で、「時短はしたいが特にアイディアがない」なんていう会社があるのも事実です。そんな会社ではこんなことが起こっています。
もし新入社員から「どこからどこまでが労働時間ですか?」と尋ねられたら、「会社が指揮命令をして労務を提供している時間だ」と答えます。上司が指揮命令をしていない時間に「仕事をしていました」と訴えても通用しません。研修時間については労働時間とするのが一般的です。
しかし、会社が命令をしていない研修への参加は、労働時間とはいえません。また、労務を提供していないことからも賃金は発生しない、という回答になります。
企業と個人それぞれの働き方改革
事例2で紹介したケースは、かなり悪質な実例です。叩き上げタイプの営業部長は、「俺たちには労働基準法なんて関係ない」という感覚があり、人事部とはかなりの温度差がありました。今では職場環境は改善されています。
働き方改革関連法の施行により残業の上限規制が始まると、一部の会社では、定刻に職場の電気を一斉消灯するという方法をとりました。そうすると、今度は会社の近くのカフェに続々と社員が集まるようになったというわけです。
仕事を自宅へ持ち帰る社員も増えました。多くの会社では持ち帰りを禁止していると思います。それでもある程度、上司が目をつぶるとか、あえて泳がすこともあります。先のカフェでの労働も、どちらも法律違反です。
もし、残業時間の超過が発覚すると大問題になります。管理職は降格されることもあるでしょう。悪質だとして部長本人が書類送検された事例もあります。最近は、以前に比べると、労務に対する認識は改められ、法律を守る意識が浸透してきています。
事例3で紹介したケースは、残業がなくなると生活水準が変わってしまうという実例でした。これは構造に問題があります。残業を前提として組織を構成する、日本企業の特徴的な側面があらわれています。残業代をふくめてひと月の手取り給与の額が決まっている会社も多く、そもそもの基本額を低めにしていることもあります。残業が減り給与が減ってしまった分、給与を増やした経営者もいます。
ブラック企業や社畜などの呼称が生まれたのは、ごく最近のことです。企業に対する世間の目は、この数年で確実に厳しいものになっています。そして、それに呼応するように行政の動きも活発になり、企業に労働環境の改善を強く求めるようになりました。それがまさに「働き方改革」なのですが、その改革を求められているのは企業だけではなく、「働く人」にも改革が必要なのだ、ということがわかってきました。
働き方改革の大本命である「長時間労働の是正」には生産性の向上が不可欠であり、そのための業務全体の効率化は当然として、労働者個々人も生産性を向上しなければならないからです。今までは苦手な業務であっても、時間をかけて期日までに達成できていればよかったのです。それが、時短により、時間をかけずに達成しなければならなくなりました。
働き方改革により、生産性の向上を求められたのは企業でした。しかしそれは同時に、働く人にも生産性の向上を求めていることを再認識しておく必要があります。
ポイント
部下の業務を結果だけで判断するのではなく、なぜ時間内に仕事を終えられないのかを把握することが重要です。一度、社員の隣に一日中張りついて、仕事ぶりを見てください。本人にとって、ベストだと考えている仕事の仕方が実は間違っていないかを管理職が確認し、すり合わせを行うとかなり効果的です。これが労務の改善ポイントになります。管理職には、社員の業務を管理して指導する役目があります。業務量と成果の把握をし、本来あるべき姿に近づける、その方法を指導することこそが管理職の仕事です
関連記事
- 言うことを聞かない部下が重大ミス 責任を負うのは上司なんですか?
間違いを指摘しても、なかなか従わない部下がいます。その部下がやってしまったミスが自分の責任になると思うと胃が痛いです。どうすればいいのでしょうか。 - 「できない」という部下に「俺が若いころはできたんだから」と言うのはダメ?
部下に指示したときに「無理です」といわれる場面が多いです。つい「俺が若いときにはやったぞ」「俺ができたんだから、お前もできる」と、自身の経験を挙げて説明したくなります。ダメでしょうか? - 部下を叱るとき、「絶対に使ってはいけない」NGワードを教えてください
部下を叱るときに、つい厳しい口調で言ってしまうので、不適切な発言が入っていないか心配です。叱るときに「絶対に言ってはいけない」言葉を教えてください。 - 部下に頼られすぎて自分の仕事が後回し モテる上司は間違いなんでしょうか?
上司として、いろんな部下から頼られたい、相談を受けたいという気持ちがあります。ですが、部下のフォローにばかり時間を割いてしまい、自分のタスクを始めるのが夕方頃から……というのもしばしば。どう改善すればいいのでしょうか。 - 部下のやり方についつい口出ししたい……言うべき・言わないの線引きはどこ?
部下の動きを見ていると、どうしても口出ししてしまいたくなります。部下に出来るだけ任せたいのですが、「これ以上任せると失敗するので口出ししよう」という線引きはどのように定めればいいのでしょうか。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.