Sansanの営業はなぜ「専門スキルより、汎用的なセールススキルの習得」を重視するのか:先駆者たちの「セールスイネーブルメント」(2/3 ページ)
Sansanは2018年に「営業1人当たりの受注金額向上」を目標に営業組織の教育に力を入れ始めた。現在、営業メンバーが増える中でオンボーディングにかかる期間を半減させることに成功したという。どのような取り組みをしているかというと……
基礎スキルを固める「オンボーディング」に注力
──セールスイネーブルメント組織の具体的な取り組みについて教えてください。
注力しているのは「新入社員の立ち上げ教育(オンボーディング)」です。入社半年は基礎を固める期間として、営業に求められるスキルや考えをインプットします。クライアントの課題を特定する研修やクロージングスキルを磨く研修、スキルチェックなど、時期によってさまざまな研修プログラムを設けています。
──5〜6カ月目の「スキルチェック」フェーズではどのようにスキルを測っているのでしょうか?
案件の創出から受注までに必要な営業スキルを言語化し、「3×3(Sansan)セールススキル」として定義しています。例えば、商談の事前準備の中には「顧客の理解」「仮説構築」「商談のデザイン」など3つのスキルが存在します。できるだけ1つのフェーズで必要なスキルを細分化しすぎず、シンプルに定義しました。
セールススキルは全部で9つあります。スキルチェックは本人と所属するチームの上長それぞれが、3段階で評価します。本人と上長の意見にズレが生じる場合は、その後のミーティングなどで認識のすり合わせを行います。また、改善が必要なスキルが多い場合は、全てに取り掛かるわけではなく、どれを伸ばしていきたいか上長と相談しながら優先順位を設けるようにしています。
決まったら、「商談時に必ず〇〇を言う」「お客様と〇〇を握る」など、具体的なアクションプランも検討。3カ月後に改めてOJTでスキルをチェックする流れにしています。
「点」のリクエストから「面」のナレッジ化へ
──他に実施している取り組みがあれば教えてください。
マルチプロダクト化に伴い、営業人材を育成するための「フレームワーク」を作成しました。「業務へのモチベーション・組織へのエンゲージメント」「全プロダクトに活かせる汎用的なセールススキル」「プロダクトごとに必要な専門知識・スキル」など、営業成果に必要な要素を3階層に分けて、明確化しています。
大事にしているのは、営業が専門知識を身に付けるよりも先に、汎用的なセールススキルを学ぶことです。
プロダクトごとに必要な専門知識やスキルを習得することは重要ですが、それだけでは受注にはつながりません。「お客さまとのネクストアクションを明確にすり合わせる」「お客さまとしっかりと課題認識のすり合わせができる」などの汎用スキルを強化することで、結果的にマルチプロダクトのセールスも加速する、と考えています。
──どのような方法でスキルやナレッジを現場にインプットしていますか?
さまざまな教育コンテンツを準備しています。例えば、集合型の研修プログラム、自由に視聴できる動画、各プロダクトの内容や売り方を理解するためのテキストブック、営業ナレッジなどを集約した社内Webサイトなど。現場が忙しい中でもインプットしやすいコンテンツを幅広く用意しました。
──現場メンバーにコンテンツを使ってもらうために、特に意識していることはありますか?
2つあります。1つは「いかに現場目線で作成できるか」です。2つ目は、現場から上がってきた「点」でのリクエストをどのように「面」にしていくのか。つまり、特定の状況における特定の事象をどこまで汎用性のあるナレッジに昇華できるか、を意識しています。実際に現場の成功事例や失敗事例を観察し、要素として盛り込むようにしています。
また「これはナレッジだ」と思ったら、適宜、教育コンテンツ化しています。その後、現場メンバーの反応を見ながらアップデートするようにしています。研修プログラムは1回作って終わりではなく、常に修正する前提で作成しています。そのため、どんどん精度が高いものにアップデートされていきます。
──どのようなチーム編成で、現場目線のコンテンツを作っているのでしょうか?
セールスイネーブルメント組織のチーム編成については、活躍している営業人材をスカウトして所属してもらうようにしていました。研修を受けるのは営業メンバーなので、営業で成果を出していたメンバーが話す方が説得力が増すと思っています。
もちろん、トップセールスを他部署に引き抜くので、会社として一時的に売上が下がってしまうことが懸念ではあるものの、会社の売上増加のために必要不可欠だと思っています。
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