クルマが壊れる3つの原因 故障のパターンとこれからの自動車社会に起こる変化:高根英幸 「クルマのミライ」(5/5 ページ)
クルマのメンテナンスフリー化が進んでいる。新車から5年はオイル交換のほかは、燃料給油とタイヤの空気圧を管理する程度で走り続けることが可能なくらい、クルマの信頼性が高まっている。けれども機械や電子部品は永久に使い続けられるものではない。
これからのクルマの構造はどうなっていく
すでに設計はモジュール化しているのだから、EVが主体になればデザインやボディサイズの違いはあっても、使用する部品は今よりもさらに共通化が進んでいくだろう。パワートレインや機能部品はそれほど大きく進化するようなことはなく、デザインなど他の部分で商品価値が維持されるようなモデルチェンジを実施していくことも考えられる。
そうなると自動車メーカー間でも差が少なくなって、規格化された部品をサプライヤーが供給し、自動車メーカーはそれを組み合わせて、ボディスキンを作りインテリアを仕上げて魅力的な商品を作り上げるようになるかもしれない。現在のPCのように、各部品に互換性を持たせるような構造を規格化して、各社で内部のパーツはほぼ規格化されたパーツが組み込まれるのだ。
使い捨てでどんどんリサイクルすればいい、というような使い方は、最早時代にそぐわない。そういった規格化がなされれば、リユースも進むしリサイクルもより効率的に行なわれることになる。
エンジンのように複雑で独自性が発揮できる機械とは違い、モーターはシンプルであるため、制御系以外に独自性を発揮していくことが難しい。もちろんモーターでもさまざまな技術が盛り込まれ、磁石の配置や素材開発などで独自技術を発揮できる領域はあるが、それは今よりも限定的になるだろう。
トヨタを始めとした日本の自動車メーカーは、水素やバイオ燃料でエンジンの可能性を探る挑戦を始めたが、現在の規模でエンジン車の供給を続けることができなければ、クルマ自体が非常に高価になり、庶民はEVのカーシェアを利用するしかない、という環境に陥るかもしれない。
それでいい、という人もいるだろうが、コロナ禍でなくてもパーソナルなモビリティを欲する層は一定数は維持されていくに違いない。そうした人が選べるクルマを用意していかなければ、自動車メーカーも淘汰されることになる。
我々は本当に激動の時代に遭遇していることを実感させられる。今なら旧車から最新のプラグインハイブリッドやEVまで愛車を選び放題(経済的な制約はあるが)なのだ。先々への心配よりも、今の状態を楽しむことが先決だが、昨今の新車供給不足はそんな楽しみさえもなかなか自由に味わえないのが残念だ。
筆者プロフィール:高根英幸
芝浦工業大学機械工学部卒。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。これまで自動車雑誌数誌でメインライターを務め、テスターとして公道やサーキットでの試乗、レース参戦を経験。現在は日経Automotive、モーターファンイラストレーテッド、クラシックミニマガジンなど自動車雑誌のほか、Web媒体ではベストカーWeb、日経X TECH、ITmediaビジネスオンライン、ビジネス+IT、MONOist、Responseなどに寄稿中。近著に「ロードバイクの素材と構造の進化(グランプリ出版刊)、「エコカー技術の最前線」(SBクリエイティブ社刊)、「メカニズム基礎講座パワートレーン編」(日経BP社刊)などがある。企業向けやシニア向けのドライバー研修事業を行う「ショーファーデプト」でチーフインストラクターも務める。
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