「無限列車は鬼滅だけど、霧幻鉄道は不滅です」 映画監督と主演に聞く(後編):杉山淳一の「週刊鉄道経済」(3/7 ページ)
福島県の会津若松駅と新潟県の小出駅を結ぶJR東日本の只見線を、奥会津の風景とともに年間約300日、30年間以上も撮影し続けたのが星賢孝氏だ。氏の主演する映画『霧幻鉄道 只見線を300日撮る男』の全国展開が始まる。映画の魅力と只見線のこれからを、星氏、監督の安孫子亘氏に聞いた(後編)。
――観光といえば、映画にも出てくる霧幻峡の渡し船は星さんが復活されたんですね。あれは誰でも乗れますか。どこへ行けるんですか。
星: 予約をしていただければ誰でも乗れます。船頭は私のほかに何人かいます。霧幻峡って名前は私が付けました。300年の歴史があった集落にタイムスリップできます。集落はなくなったけれども、観音様、神社、古民家が1軒残ってます。300年の夢とロマンがあるわけですよ。つくり物じゃない人々の暮らしの跡ですから。
――霧幻峡の風景って、中国大陸の秘境のイメージがありますよね。って私は行ったことないですが。台湾の方々も、あの景色に引かれるんじゃないですか。
星: 霧幻峡みたいな景色はなかなかないですから。台湾や東南アジアの人々の心をつかんだのは、秋の紅葉と冬の雪景色です。あちらにはないんですよね。ああいう景色に憧れを持っている。春は桜、夏の川霧、秋の紅葉、冬の雪景色。四季が全部美しい。こういう景色は日本でもなかなかないんですよ。
彼らはオレの写真を見たり、オレとの交流を深めたりしながら、憧れを持ってどんどん来てくれる。年に4回も5回も。通算で10回、20回と来てくれている人もいます。彼らにとって日本と奥会津、只見線は特別な存在になってきたのかな。
――10回も来たら、もう自分の故郷みたいな感じになっちゃいますよね。
星: 30回も日本に来た方がいて、19年の台湾の講演で「只見線を全部撮り尽くしたつもりでしょうけれど、全線開通したらビューポイントは今までの2倍広がる。なおかつオレは景観整備を一生懸命やってるから、皆さんが見たことないようなビューポイントをいっぱいつくっている。だからこれからも来ないとダメだめだよ」って言ったんです(笑)。そしたらみんな「行きます、行きます」って言ってくれました。
――景観整備は映画にも出てきますね。
星: 行政の人はなかなか気付いてくれなかったけれど、オレは建設会社にいたから分かるんです。再三お願いして、それがようやく理解されてきた。行政の中でも観光庁は国土交通省の中に入っているから縁がないわけではないし。なによりも景観整備をすることは国土の保全につながるんです。どういうことかというと、木を放置しておくと日が差さなくなって山が死んでしまう。昔は人がいっぱいて、適切に管理してたから良かったんだけれど、今はそうでないから。
戦後復興で家を建てるために、国主導で杉の木を植えたんだけど、杉が育って切れる時期になったら外国から輸入したほうが安くなった。だから誰も切らないし放置されている。日が差さないから下草も生えない。そんなところに大雨が降ったら地山が崩れて、11年前のような大水害につながった。さらに流木になった杉が、下流の橋や街を破壊するわけだ。イノシシも猿も熊も、景観整備はしてくれないから。人間がその役割を放棄してはだめだ。
景観整備をすれば観光客はいっぱい来る。道端が一番安い観光施設だ。箱物をつくって観光客を集めようと思ったらとんでもないお金がかかっちゃうけど、木を2、3本切るだけで、外国から人がいっぱい人がくるんだぞと。ようやく奥会津では理解されてきました。
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