【解説】悪用されたKyashの後払い「イマすぐ入金」 不正の手口と課題はどこに?:金融ディスラプション(2/3 ページ)
決済サービスKyashの機能を悪用し、チャージされた30万円あまりをだまし取ったとして、中国人ら4人が逮捕された。7月20日、NHKが警視庁への取材として報じた。いったい何が起こって、どんな課題があったのだろうか。
不正発生の背景とは
ではなぜこんな詐欺が発生したのか。まずこの「イマすぐ入金」は概念自体が新しい。2018年の春頃に登場した、CNPL(チャージ・ナウ・ペイ・レイター)という仕組みだ。CNPLの説明に入る前に、伝統的な方法からBNPL、CNPLに至る流れをおさらいしておこう。
ユーザーにお金を貸す行為は、銀行法や貸金業法で規制されている。また、品物を売って代金を後から支払ってもらう行為は割賦販売法で規制されている。いずれも、所轄官庁への登録や、指定されたJICCやCICなどの指定信用情報機関への利用履歴の登録が必要で、貸金業法では利用者の住所氏名など本人確認(KYC)も求められる。
これらは悪質な貸付を防ぎ利用者を保護するための総量規制などに活用されているが、同時に返済の可能性を高めることにもつながっている。クレジットカードやスマホの分割払いを支払わないでいれば、指定情報機関に登録されて、いわゆるブラックリスト入りし、その後のサービス利用ができなくなるからだ。
一方で、KYCや指定情報機関への照会は、サービス利用のハードルにもなっている。法改正により、本人確認書類をスマホのカメラで撮影して本人確認を行うeKYCが普及し、以前よりは手続きが容易になったとはいえ、それでも気軽に申し込めるものではない。
しかし、フィンテックの発展により、法規制の対象にならないサービスが急成長している。「後払い(BNPL)」と呼ばれるサービスだ。実は、商品販売から2カ月以内に精算する場合、割賦販売法の分割払いの適用外となり、経産省への登録や信用情報機関への照会が不要になる。
多くのBNPLでは、本人確認書類の必要なしで利用でき、ユーザーにとって利用のハードルが低い。気軽に利用できることが、ユーザー拡大につながった。
このBNPLを、さらに汎用化して拡大したのがKyashも採用するCNPLだ。BNPLでは、先に品物を購入し、代金を後から支払う。このとき、プリペイドカードにチャージするバリューを「品物」と見立てたらどうか。Visa加盟店で使えるバリューを購入(チャージ)し、代金を後から支払う(ペイ・レイター)という流れが実現する。
貸付を行っているのではなく、バリューを売っているだけなので貸金業法の対象にはならない。そして、2カ月以内に精算することで割賦販売法の規制対応も不要になる。
実際、Kyashの「イマすぐ入金」では、氏名と生年月日、電話番号、メールアドレスの登録だけでチャージが可能だ。しかしKYCを行わないため、氏名や生年月日が正しいかどうかは確認できない。メールアドレスや電話番号は、登録時にSMS認証などで確認しているが、悪意を持ったユーザーであれば大量に用意が可能だ。
実際、逮捕された容疑者は、大量のSIMカードを用意して複数の電話番号を取得し、フリーメールアドレスと偽名によって登録をしていたもようだ。
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