ローカル鉄道は高コストなのに、なぜ「運賃」はバスより安いのか:杉山淳一の週刊鉄道経済(6/6 ページ)
鉄道を走らせるのには、さまざまなコストが発生する。ローカル鉄道になると、運賃収入が見込めないので、経営は苦しくなる。にもかかわらず、なぜバスよりも「運賃」が安いのだろうか。そのカラクリを見ると……。
結局のところ、鉄道は値上げ、値下げ、どっちだ
鉄道運賃の値下げについては現在の制度でできる。だから「運賃・料金制度を変える」とは、「値上げしやすくする仕組み」をつくると考えて間違いない。ただし、値上げ一方でもなかろう。都市の鉄道で検討されている「時間制運賃」は、混雑時間帯の運賃を上げるけれども、閑散時間帯は誘客のために値下げする。値上げによる収入が大きいほど値下げの原資になる。
地方鉄道については値上げの方向になるだろう。値下げしたところで、そもそも人口が少ない地域では誘客に期待できない。鉄道の利用者に、鉄道のメリットである定時性、バスよりすぐれた居住性を理解してもらって、それに見合う運賃をいただくことになる。それを負担に感じる利用者については、鉄道事業者の割引制度より、自治体の利用者に対する補助という形が望ましい。
具体的には、先の過疎地を走るバスのような、現在の鉄道運賃の2倍程度の値上げになるのではないか。実は筆者は、その方向性が正しいと思っている。安すぎる運賃を前提として、赤字だ、廃止だと地域を脅し続けるよりも、運賃を上げてサービスレベルを上げる方向が正しい。
運行本数を増やすなど、もっと便利になれば、バスより運賃が高くても乗ってくれる。補助頼みではなく、市場の原理で鉄道輸送が成立すべきだ。バスに置き換えられないくらい、鉄道が鉄道らしくあるための運賃にすべきだろう。
「今後の鉄道運賃・料金制度のあり方等について 中間とりまとめ」は、現行運賃制度が時代に即していないと指摘した。ただし、今後どのように改革していくか、という部分は結論を出していない。「引き続き検討していく課題を整理した」とあるように、この議論は結論がまとまっていない。ほぼ同時期に公開された「今後の鉄道物流のあり方に関する検討会」や「鉄道事業者と地域の協働による地域モビリティの刷新に関する検討会」に比べるとパンチ力が弱い。新たな審議会で法制度を提案せよ、ということかもしれない。
そのときは法案に踏み込んだ内容になるだろう。あえて「鉄道運賃の規制緩和」というけれども、それはもう少し先の話になりそうだ。しかし鉄道を取り巻く環境は変化が大きい。なるべく早く次のステップに進んでほしい。
杉山淳一(すぎやま・じゅんいち)
乗り鉄。書き鉄。1967年東京都生まれ。年齢=鉄道趣味歴。信州大学経済学部卒。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。出版社アスキーにてPC雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当。1996年よりフリーライター。IT・ゲーム系ライターを経て、現在は鉄道分野で活動。著書に『(ゲームソフト)A列車で行こうシリーズ公式ガイドブック(KADOKAWA)』『ぼくは乗り鉄、おでかけ日和。(幻冬舎)』『列車ダイヤから鉄道を楽しむ方法(河出書房新社)』など。公式サイト「OFFICE THREE TREES」ブログ:「すぎやまの日々」「汽車旅のしおり」。
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