北海道の“保育園”に首都圏から家族連れが殺到 人口3500人の過疎町に何が?:広がるワーケーション(2/2 ページ)
北海道厚沢部町という人口たった3500人の過疎町に首都圏から訪れる子連れ家族が後を絶たない。新千歳空港から車で3時間と決して利便性が高い町とは言えないにもかかわらず、なぜこんなに人が集まるのか?
「はぜるの子どもたちはとてもコミュニケーション能力が高い子が多いです。保育園留学のことを伝えた時も戸惑いよりワクワク感を覚えた子どもが大半でした。『来週はこんな子が来るよ』と教えると、『こんなことして遊びたい!』など積極的に考えてくれます。実際にその子が来た際には事前に話していた遊びをしたり、自発的に自己紹介タイムを設けたりと、教員までも巻き込んでいきます(笑)」とはぜるの主任保育教諭 西村智香さんは話す。
過疎化の影響から、はぜるの子どもたちは入園から卒園までほぼ同じ顔触れで過ごす。保育園留学は週単位で新しい友達と過ごすことになるため、子どもたちにとっても大きな刺激になると考えたという。
いくら子どもたちが積極性にあふれているといえど、全て子どもたちに任せきりなわけではない。保育園留学が決まった家族と入園前に面談を実施。子どもの性格や興味関心、アレルギー情報などをヒアリングし、入園の不安を解消している。
ここで、おそらく読者も感じているであろう疑問を解消したい。入園から卒園まで顔触れが変わらない閉じた環境で生活している子どもたちの適応力の高さはどのように醸成されたのだろうか。
「はぜるには農家さんなど地域の方が多く出入りするんです。そのため、園外の方と接するハードルが下がっているのだと思います。子どもたちの主体性を尊重するというはぜるの教育方針も影響しています。お泊まり保育のコンテンツを決めるときも子どもたちが宿泊場所のアイデアを出し合っていました。カレー作りの材料を買いに行くときも教員は子どもたちが買い物をするのを見守っているだけでした」(橋端さん)
子どもの主体性を掲げる教育機関は増えてきてはいるだろう。しかし、保育園や学校という環境の中、教員が決めた枠組みの中での主体性に限られてしまうケースが多い。はぜるは保育園を飛び越えた体験や考える機会を提供し、子どもの主体性を育んでいることが分かる。保育園留学ははぜるの子どもたちの主体性なくして実現しえなかった取り組みのように見える。
子ども、特に未就学児を持つ保護者にとってワーケーションはかなり実現可能性の低い働き方と言える。保育園留学という取り組みが始まったことで、今までワーケーションにチャレンジできなかった層にも選択肢が広がった。それと同時に、保育園留学という形態は、過疎町が人を呼び込む起爆剤になることも証明された。受け入れ家族数600組やリピート率90%という数字が証拠だ。
20年に実施された国勢調査では、今後30年間で過疎指定市町村の50.7%で人口が半減するとの予測が出ている。9割の過疎指定市町村で3割以上の人口減少が見込まれる。ワーケーションや保育園はある特定の層に閉じられたものだった。その”当たり前”を崩したビジネスが地域活性化に与える影響は大きい。
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