IT駆使して人気だった「ブルースターバーガー」なぜ閉店? プロが指摘する「接客不要」の落とし穴:長浜淳之介のトレンドアンテナ(3/7 ページ)
外食DXの成功例としてもてはやされた「ブルースターバーガー」。完全キャッシュレス、非接触のスタイルが画期的だった。行列ができるほど人気だったのに、なぜ全店閉店に追い込まれたのか。
タブレットの前に行列
しかし、実際には、待ち時間ゼロどころか、オープンした頃は顧客が殺到。タッチパネルの前に行列ができて、注文した後も1〜2時間は優に待たされていた。
それだけ反響が大きかったわけだが、ファストフードとして体をなしていなかった。
それに、決済をキャッシュレスに全振りしたのも、現金決済が主流の日本ではハードルが高かった。Gourmet113 渋谷宇田川店では、最終的に現金払い専門のタッチパネルを店頭に設置していた。
また、Gourmet113 渋谷宇田川店は55席を有し、1950年代アメリカンダイナーの雰囲気を構築して評判は悪くなかった。しかし、これだけの席数を用意したということは、不要に見えたイートインスペースが実は必須のものだったと認めたに等しく、真逆の修正を行った。
テークアウト専門をうたった創業店の中目黒店も、当初は店内に立ち食いができるスペースを確保していただけだったが、最終的にはゆっくりくつろげるように座席を設けた。
このように「完全キャッシュレス化」「テークアウト専門店」という、2つの前提が崩れると、家賃・内装投資・人件費といった経費を極限まで軽減して商品原価に投資するモデルが、成立しなくなってしまう。
しかも、牛肉の値段が高騰。世界的なコロナ禍からの需要回復による供給不足や、牛の飼料となる穀物価格の高騰などが背景にあり、一企業の努力では対処できない。現にブルースターバーガーは今年4月に値上げした。一例を挙げれば、ハンバーガーの値段は210円(税込)と、200円を超える価格になった。
そうした理由で、大けがをしない前に、早々にブルースターバーガーは撤退を決断したのではないだろうか。
なお、ダイニングイノベーション傘下のブルースターバーガージャパン(東京都渋谷区)という事業会社が経営しており、西山氏の長男、西山泰生氏が社長を務めていた。
泰生氏は、シンガポールと米国で高校生活を送り、起業に興味を持った。大学入学後は複数のIT企業でインターンを経験。ITを活用して、日本の外食の環境改善に役立てたいと考え、大学生ながらDXを駆使して、世界最大の外食市場であるハンバーガーショップの展開に打って出たとのこと(出所:大学生社長による神戸市の低価格バーガー、新規参入の策とは)。
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