30年横ばい……日本人の給与アップ阻む「労使間の格差」 収入増へ個人ができる5つの方法とは?:企業と働き手のWin-Winな関係へ(4/4 ページ)
日本人の給与は30年ほぼ横ばい。賃金アップが実現しない背景に、従来の賃上げ交渉の限界や「労使間の格差」を筆者は指摘する。格差を克服するためには、働き手の「エンプロイアビリティ(雇用される能力)」を磨くことが必要になる。「労使対立」から「労使互恵」へと転換する新時代の労使の姿を考える。
これらはすべて、働き手の「エンプロイアビリティ」(employability:雇用される能力)を磨くことにつながります。会社としては、働き手がエンプロイアビリティを磨くほど業績向上に寄与してくれることが期待できるため転職されるのは避けたいところです。
それに対し、働き手側は高いエンプロアビリティを有した上で転職も視野に入れ、さらに副収入まであれば気持ちにゆとりが生まれます。役職・成果・スキル・転職・副収入――5つの要素は相乗効果を生む形で、働き手の賃金交渉力をも高めていくのです。
「労使対立・協調」から「労使互恵」の関係性へ
一方、働き手がエンプロイアビリティを磨き交渉力を高めると、会社側は働き手が自社を選んでくれるように職場環境や勤務条件を整えるなど、「エンプロイメンタビリティ」(employmentability:会社の雇用能力)を磨く必要性に迫られます。そうやって雇う側の会社と雇われる側の働き手との間にあった立場の差が縮まっていけば、賃上げの個人交渉がしやすい土壌が構築されていきます。
すでに経済界からは「終身雇用の維持は難しい」という声明が出されました。終身雇用が維持できなくなったということは、働き手が一つの会社だけに依存するリスクが高まると同時に、自らの手で自身を守る術を身に着けなければならなくなったことを意味します。
一方、会社としては働き手を自社に縛りつけるのではなく、一定の自由度が保てるように解放する必要があります。終身雇用の維持は難しいとしながら、働き手が転職サイトに登録したり副業したりするのは制限する、という姿勢ではフェアとは言えません。
これまで働き手と会社の関係性は、お互いの利害が異なることを前提に闘争する「労使対立」や、互いが協力し合うことによって利益を生みだす「労使協調」というスタンスを軸に認識されてきました。しかし、過去からの経緯を見る限り、その延長線上のままではこれまでの賃金上昇率の範囲から抜け出すことは期待し難いように思います。
働き手と会社が、それぞれ相手側から見た価値を高めようとしてエンプロイアビリティとエンプロイメンタビリティを磨き合えば、労使の関係はさらに建設的なものになるはずです。会社は業績を向上させる一方で、働き手に高待遇で応え、働き手は個人で賃上げ交渉して人材としての自らの価値を守りつつ高めていく。“新時代”の労使が目指すべき姿は、そんなWin-Win(ウィンウィン)を追求する「労使互恵」の関係性なのではないでしょうか。
著者プロフィール・川上敬太郎(かわかみけいたろう)
ワークスタイル研究家。1973年三重県津市出身。愛知大学文学部卒業後、大手人材サービス企業の事業責任者を経て転職。業界専門誌『月刊人材ビジネス』営業推進部部長 兼 編集委員、広報・マーケティング・経営企画・人事部門等の役員・管理職、調査機関『しゅふJOB総合研究所』所長、厚生労働省委託事業検討会委員等を務める。雇用労働分野に20年以上携わり、仕事と家庭の両立を希望する“働く主婦・主夫層”の声のべ4万人以上を調査したレポートは200本を超える。NHK「あさイチ」他メディア出演多数。
現在は、『人材サービスの公益的発展を考える会』主宰、『ヒトラボ』編集長、しゅふJOB総研 研究顧問、すばる審査評価機構株式会社 非常勤監査役、JCAST会社ウォッチ解説者の他、執筆、講演、広報ブランディングアドバイザリー等の活動に従事。日本労務学会員。男女の双子を含む4児の父で兼業主夫。
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