「撮り鉄」のマナー違反どう減らす? 撮影イベント有料化で見えてきたメリットとは:実はありがたい存在?(3/3 ページ)
鉄道写真の愛好家「撮り鉄」がこのところ、SNSを騒がせている。駅構内で脚立を使った列車の撮影や、駅係員に暴言を吐くなどのマナー違反に批判が高まっている。トラブルを回避しようと、鉄道事業者が有料の撮影イベントを開催したりする動きも出てきている。
撮影イベント「有料化」で見えてきたこと
こうした中、JR東日本が2021年11月から始めた新たな取り組みが注目を集めている。「撮り鉄コミュニティ」と題した鉄道ファン向けのオンラインコミュニティの開設で、参加希望者は、撮影した鉄道写真を投稿できる無料会員と、特別撮影会などの限定イベントに参加できる有料会員(月額1100円)から選べる仕組みにしている。
運営するJR東日本スタートアップによると、現在の会員数は約700人で、このうち3〜4割が有料会員。コニュニティを立ち上げた同社の山本裕典さんは「当初は集まっても100〜200人ほどと考えていたので、反響の大きさに驚いている」と話す。
コニュニティ開設の背景にあったのが、マナーを守って撮影を楽しむ「撮り鉄」を救いたい――との思いだったと山本さんは話す。
「本来、『撮り鉄』は鉄道という私たちの商品を魅力的に撮影し、発信してくれる大切なお客さま。マナー違反は一部に限られている。マナーの良い鉄道ファンを守り、実はいい趣味なんだよというメッセージを込めて立ち上げました」(山本さん)
コミュニティで参加者から募った要望などを参考にし、特別撮影会などを企画。8月には有料会員限定で「ぐんま車両センターのお散歩イベント」を開催した。参加費は2〜3万円と決して安くはないが、普段立ち入ることができない車両センターを、社員がマンツーマンで案内する撮影イベントには多数の応募があり、抽選で4人を招待したという。
山本さんは「有料にすることで参加するお客さまがどういう人か把握でき、トラブルの回避にもつながる」と話し、利用者の匿名性の解消をメリットとして挙げる。
コロナ禍による業績の落ち込みもあり、近年、鉄道各社が有料イベントを開催する動きが活発化する中、今後は「撮り鉄」のマナー向上を目指した有料撮影イベントなども広がるかもしれない。
たびたびクローズアップされるトラブルに悪印象がつきまとう「撮り鉄」だが、鉄道会社にとっては、鉄道の魅力を広く発信してくれる「上客」であり、自治体にとっても町を訪問し観光振興に一役買ってくれる可能性を秘めた存在だ。いかにしてマナー違反を減らすか。企業や自治体の試行錯誤が続いている。
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