開業率1位の福岡市 スタートアップ経営者が“東京”を選ばないのにはワケがある:躍進する福岡市(後編)(1/2 ページ)
福岡市は市を挙げてスタートアップの創業支援に力を入れている。大都市地域の開業率は東京23区や名古屋を抑え、1位に輝いた。なぜスタートアップはこぞって福岡市での開業を目指すのか?
スタートアップへの支援が手厚い地方都市と言われて、どこを思い浮かべるだろう。福岡市では市を挙げてスタートアップの創業支援に力を入れている。地方創生につながるその取り組みについて、福岡市 経済観光文化局 創業・立地推進部 創業支援課 創業推進係長の松尾彩佳さんに話を聞いた。
福岡市がスタートアップ支援に乗り出したのは2012年のこと。市長の高島宗一郎氏が「スタートアップ都市ふくおか宣言」を発表し創業支援課を立ち上げたのは、同氏が前年に米国のシアトルを訪れたことがきっかけだ。シアトルは福岡市同様に首都から離れた西海岸の街。人口は福岡市の約半分でありながら、マイクロソフトやスターバックス、コストコといった世界の名だたる企業が生まれている。これに倣い、市長は支店経済都市からの脱却、そして世界に誇る企業の誕生を目標に掲げた。
創業支援課では「垣根を低くし創業の裾野を広げる」「スタートアップの成長を支援する」という2軸で開業支援に取り組んできた。実際、福岡市における開業率は政令指定都市の中で1位。20年度は7.2%と、全国平均(5.1%)と比べても高い数値を記録している。
福岡市の創業支援、10年間のあゆみ
福岡市は12年から10年間にわたって創業支援を続けてきた。松尾さんによれば、その中でも特に大きな契機となった出来事が3つあるという。
はじめに、14年の国家戦略特区指定及びスタートアップカフェの新設が挙げられる。国家戦略特区に指定されたことによる規制緩和が容易に伴い、さまざまな新事業に取り組みやすくなった。
スタートアップカフェはコワーキングスペース、イベントスペースを兼ね備えた空間。起業を考える人たちが気軽に相談できるよう起業家の先輩や税理士などが日替わりで常駐しているのが特徴だ。「創業の垣根を低くする」という狙い通り、10〜80代と幅広い年齢層が創業支援の相談に訪れるという。
スタートアップカフェへの創業相談数は開設以来、報告があっただけでも609件に上る。その内訳は福岡市の産業を反映し、飲食などのサービス業やIT系が大半。またこのコロナ禍で相談件数は急増し、例年の1.5倍に当たる年間3000件を超えるようになった。それに合わせて福岡市は補助金を新設するなど、さらに創業を後押ししている。
次の契機は17年、Fukuoka Growth Next(以下、FGN)をオープンしたことだ。市内に点在していたインキュベーション施設を1カ所に集約し、スタートアップの成長を支援している。「福岡の人・モノ・金・情報」が全て集まる拠点を作ることで、化学反応が起きやすい土壌を整えた。22年5月現在、FGNに入居する企業は198社に上る。もともと別の場所に構えていたスタートアップカフェもFGNの1階に移転した。
FGNはスタートアップがただ集まっているだけではない。入居企業との事業連携を探る企業がスポンサーとして携わっている。22年度には九州電力やLINE FUKUOKA、さくらインターネットなど合計33社がスポンサーとして活動を支援する。
そして20年、内閣府によってグローバル拠点都市に認定。スタートアップ支援のために集中的にリソースを投下する都市として選ばれたのだ。これにより福岡市に関連するスタートアップは、国が実施するアクセラレーションプログラムに優先的に参加できたり、海外展開の支援を受けられたりするようになった。
現在、地方創生の一環としてさまざまな地方都市がスタートアップ支援を掲げているが、福岡市は10年間の取り組みを持ってして、その先駆者的存在となっている。「福岡市に続け!」と視察に訪れる関係者も多いという。
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