開業率1位の福岡市 スタートアップ経営者が“東京”を選ばないのにはワケがある:躍進する福岡市(後編)(2/2 ページ)
福岡市は市を挙げてスタートアップの創業支援に力を入れている。大都市地域の開業率は東京23区や名古屋を抑え、1位に輝いた。なぜスタートアップはこぞって福岡市での開業を目指すのか?
世界に羽ばたくチャンスが福岡に
福岡市の創業支援は日本に閉じた話ではない。海外都市との連携にも意欲を見せる。同市は海外11カ国・地域15拠点とスタートアップ支援にかかわるMOU(Memorandum of Understanding、行政機関などの組織間の合意事項を記した文書)を締結。台湾・台北市やニュージーランド・オークランド市などが締結先だ。福岡市内のスタートアップは締結先都市でのビジネス展開や地元企業とのマッチングに関するサポートを受けられる。その逆も然りで、提携先都市の海外企業も福岡市を日本進出の足掛かりにすることができる。アジアに近いという地の利や東京に比べてビジネスにかかるコストが抑えられるという特徴を存分に生かした施策と言えるだろう。
また、同市は大学発ベンチャーにも力を入れる。福岡都市圏は人口当たりの大学数、若者数が多く、毎年5社ほどの大学発ベンチャーが生まれているという。例えば、九州大学発の日本炭素循環ラボ(福岡市)は、カーボンニュートラル社会の実現を目指す。工場などからの排出された二酸化炭素を回収し、農業や工業の場で有効活用する技術を開発している。その高い技術力がJAXAに評価され、現在は共同で研究開発を進めているという。
順調に見えるが、課題も残る
このようにさまざまな手段で成果を出しつつある福岡市だが、やはり当初からのゴールである「支店経済からの脱却」は依然課題として残っている。「支店は経済状況の影響を受けやすいです。撤退も考えられるので、安定した雇用を生むためにも福岡市発の企業を増やしたいと思っています」(松尾さん)
また、優秀な若者は多いものの、受け皿となる企業が少ないために卒業後に市外へ転出してしまうのも大きな課題となっている。松尾さん自身も研究者を夢見て福岡市内の大学院に進学したものの、その経歴を生かせる企業が市内には多くなかった。研究側ではなく、研究活動を支援する側に回ることにし、福岡市役所に就職したという。
スタートアップカフェの活用によって起業に関する相談件数自体は増え、創業の裾野は広がっているものの、その後の成長支援にも課題が残る。特にシリーズB以降、大型資金調達の段階で東京へ拠点を移す企業も少なくない。
「人も企業も、東京に出ずに福岡に残ろうと思ってもらえるような土壌を作りたい」と松尾さんは展望を語った。
地方都市である福岡は、首都圏に比べ人・モノ・金・情報が圧倒的に不足している。その事実はすぐには変えられないが、福岡市は新しいことに挑戦し続けている。これからも地方の創業支援のロールモデルとして走り続けるであろう。
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