高級車の盗難はどうして防げない? 特定の日本車ばかりが狙われる理由:高根英幸 「クルマのミライ」(2/5 ページ)
一般的な窃盗と比べるとクルマの盗難はちょっと特殊だ。どうして特殊なのか。
犯罪の大多数を占める窃盗における自動車盗の傾向
日本においては刑法犯(刑法で定められた犯罪)の総数のうち、67%以上が窃盗を占めている。しかしその大部分は万引きであり、乗り物盗は前述の通り3割で、そのほとんどは自転車盗だ。自動車盗は認知件数で年間5000件(2021年)ほどとなっている。
それでも日本においては、クルマの盗難件数自体は減少傾向にあった。「あった」と過去形なのは、今年に入って自動車盗が急増しているからだ。そのため、クルマの盗難事件に関する報道も増えているのだ。それどころか盗難の手口の巧妙さはエスカレートしていく一方だ。
盗まれるのはハイエースかプリウス、トヨタの高級車で、それに加えて海外でも人気の旧車、それも日本車ばかり、というのは完全にプロの仕業であることを示している。
日本の自動車盗は、海外と比べると決して数が多いというわけではない。そもそも犯罪発生率が高い国はともかく、自動車先進国といわれる米国、ドイツ、フランス、英国などと比べても少ないのだ。つまり欧州でもクルマの盗難事件は多いのである。
それでも日本で輸入車の盗難が多いという話は聞かない。損害保険会社などが発表する盗難の多い車種ランキングでも、ここ数年上位10車種はトヨタ車(レクサスも含め)が占めている。それだけ人気があり、流通台数が多いこともあるが、同じ車種を狙い撃ちした方が盗むには効率がいいということも影響している。
輸入車は日本以外からも盗んで集めることができるが、日本車は日本で盗む方が効率が良いというのが、グローバルな窃盗グループの判断なのだろう。
自動車盗の目的として考えられるのは、盗品を売り捌(さば)くことで利益を得ることと、犯罪に利用することだが、ハイエースやプリウス、トヨタの高級車をあえて犯罪に使う目的で盗むことはないだろう。したがって、売却益が目的であるとみてほぼ間違いない。
盗んだクルマを売り捌く方法としては、バラバラにして中古部品として販売するか、海外に輸出して新たに登録してしまうかが大半だろう。しかし過走行車と車台番号を入れ替えて国内のオートオークションに出品された個体もあるようなので、そうした偽装を行なう集団も存在すると思われる。
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